習作掌編小説まとめ・異世界ファンタジー
天海彗星
荒野の騎士
湖に浮かぶ白亜の城に王者の円卓があった。円卓に集うは世界各地の高名な騎士団長達である。この名高い騎士達に自分も加わろうと来る者は多く、かの若き騎士もその一人であった。名をアゲンと言った。アゲンは名こそ無いが有能な騎士である。謁見に来たアゲンを見た王者は、彼に円卓に加わる条件として、自らの課した試練に合格することを望んだ。アゲンは王者の寛大な心に感謝し、その要件を喜んで引き受けると誓った。王者はアゲンに治安の乱れた土地の平定を命じた。アゲンは馬を駆り、砂埃舞い、落ち武者の彷徨う、危険な荒野へと赴いた。
さて、荒野の街にて、アゲンは長旅の疲れから、水を求めて宿を取った。疲れを癒し、力を取り戻すアゲン。ところが、この宿というのが不味かった。宿の主人は盗人であったのだ。アゲンは路銀を全て失い、途方に暮れることになった。おまけに宿屋の主人はあくどい性格で、何かとつけてアゲンに料金を請求し、アゲンが宿を出る頃には、甲冑や剣、馬を無理矢理質に入れられてしまったのだ。アゲンは絶望した。これでは王者に合わせる顔どころか、騎士としてもうやってはいけない。失意のアゲンは職安に顔を出して、騎士を廃業する決意を固めた。
アゲンはなけなしの力仕事をかろうじて繋ぎ続けて、生活費を稼ぎながら、路上生活を幾日も続けた。常に荒くれ者に狙われる危険な日々であったが、宿での失敗を反省し、安全に夜を過ごすように努めた。やがて、部屋を借りて住めるようになると、仕事のつてから、周りの住民達とも打ち解けられるようになった。その内に、よく顔を出していた飯屋の娘から慕われるようになり、二人は恋仲になった。逢瀬を重ね、いよいよ結婚かという時であった。荒野の彼方からならず者の軍団がやって来た。彼らはここらで一番危険とされる強盗団であった。
強盗団は街の人々から容赦無く奪っていった。武器も、食糧も、金も、家も、命も、恋人も。自衛力のある街の人々もいとも容易く倒されてしまった。アゲンは花嫁と式を挙げる直前であった。控室で騒ぎを聞いたアゲンは、花嫁と共に逃げる道を選ぼうとした。しかし、花嫁は街のために戦おうと衣装を脱ごうとした。心打たれたアゲンはかつての闘志を取り戻し、自らも立ち向かう決意を固めた。花嫁はアゲンに残りの貯金を全て使うように諭すと、アゲンは質屋に赴き、まだ残っていた甲冑と剣と馬を買い戻し、鎧の騎士に返り咲いた。
強盗団が乱射する銃火器を馬上の騎士アゲンはそよ風の如くゆらめいてかわし、眼前に突風の如く接近し、嵐のように切り裂いた。強盗団はものの数分で退治され、街中は台風一過かと思われるほど静かに清掃された後となった。それから騎士アゲンは花嫁と結婚式を挙げた。二人は幸せを噛み締めた後、相談し、騎士アゲンの望んだ白亜の城へと向かった。花嫁はアゲンに騎士でいて欲しいと望んだからである。騎士アゲンの活躍を知った王者は彼を円卓に加える約束を守った。以後、アゲンは円卓の騎士団長となり、平和を守ったとのことである。
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