騎士になった竜と姫

 むかしむかしあるところに一人ぼっちの竜がいました。竜は山の奥の洞窟の中で、あちこちから拾い集めた宝物を大事に守りながら、暮らしていました。ある時、竜が外へ餌を探しに出ると、王様の一団が鹿狩りに来たのを見かけました。すると、その中にはこの世のものとは思えないほど美しいお姫様がおりました。お姫様は小鳥と歌う可憐な方でした。お姫様は竜の大切にしている黄金や、宝石、彫像よりも、遥かに素晴らしい輝きに満ちていました。しかし、竜がお姫様を一目見ようと近づくと、周りを守っていた騎士達に追い払われてしまいました。

 洞窟に戻った竜はお姫様のことを思いながら眠る夜を何度も過ごしました。お姫様のする、春の日差しのような微笑みに包まれながら生きていくことが出来るなら、この洞窟を今まで大切にしていた宝物全てと共に捨て去っても構わないとさえ思えました。それから暫くしたある日のこと、竜は洞窟の近くの村で、噂を耳にしました。お姫様の旦那様に相応しい殿方を見つけるために、騎士達同士による試合が行われるというのです。各地から勇敢な王子を集めて、王様の跡継ぎにするためでした。竜はなんとかして自分も参加しなければと決意しました。

 そこで竜は洞窟の中を探し回り、以前に拾ったという魔法の首飾りを見つけました。首飾りを付けると、竜はたちまち人間の姿に変わりました。竜は洞窟内の宝物を身に付けて、甲冑姿の王子に早変わりすると、騎士達の試合に駆けつけました。木の柵に囲まれた広い野原に集まった騎士達は、王様の合図で一斉に武器を取って互いに突撃し合いました。騎士達は皆、馬を駆っていましたが、竜は馬を持っていなかったので、一人目立っていました。騎士達は竜を侮って襲い掛かってきます。しかし、竜は身に纏った魔法の甲冑の力でびくともしません。

 逆に竜を襲った方の騎士が勢い余って転んでしまうほどでした。するとあちらこちらから一斉に他の騎士達が仇を討とうと竜へ向かってきました。そこで竜は魔法の剣を抜き放ち、風を巻き起こして騎士達をなぎ倒して回りました。あまりのことに騎士達は甲冑を脱ぎ捨て、一目散に逃げて行ってしまいました。王様は大喜びです。このような強い騎士がお姫様の旦那様になるなら、国も安泰だろうと考えました。そこで王様は竜を労おうと、近づいて甲冑を脱ぐ手伝いをしようと兜を持ち上げた瞬間、首飾りが落ちました。竜は姿が戻り、王様達はびっくり。

「化け物め、貴様に私の娘は決して渡さないぞ! ここからとっとと出ていけ! 逃げた騎士達よ、この竜を退治たら、褒美に娘をやるぞ」

 竜は慌てて魔法の道具を拾い集めると、巻き返した騎士達から逃げました。それから竜は帰った洞窟の中で、お姫様のことを思って、一人泣く日々が続きました。その後、もう二度と外に出るまいと決めた竜のもとに、なんとお姫様がやってきました! お姫様は微笑みました。

「あなたのことが知りたくてきました。一度はあなたと婚約した身です。あなたが私に相応しい人かどうか、確かめてみてもいいかしら?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る