騎士に竜と姫
むかしむかしあるところに騎士団に守られたお城がありました。騎士達はどんな怪物とも勇敢に戦うため、人々の憧れでした。立派な勇者になることを目指して、騎士団に入団した少年も、その一人でした。しかし、少年は、仲間の騎士達から馬鹿にされていました。あまりにも少年は弱くて、騎士でもない一般人にも負けてしまうほどだったからです。次第に騎士達は、足手まといの少年を騎士団から追い出したくて、団長に告げ口するだけでは飽き足らず、厄介な仕事ばかり押し付けました。夢を諦め切れない少年は得にならない仕事を必死にやりました。
少年が任されたのは騎士の仕事ですらない雑用でした。炊飯、便所掃除、ゴミ捨て場の管理、それからかろうじて騎士らしい、小屋にいる馬達の世話くらいです。どの仕事も体力がいる上に騎士の名誉にもならないことなので、少年には辛いものでした。それに加えて、憧れの騎士達は口々に少年の惨めな生き方を否定し、蔑み、馬鹿にして気まぐれな暴力を振るいました。少年はもうこんな仕事を辞めてしまおうと何度も思い、毎晩涙で枕を濡らしましたが、「まだ騎士らしくなれてもいないのに諦めてどうする」とひたすら耐え続ける日々を続けました。
さて、人間から見放された孤独な少年は、働いていく内に、身近な動物達の声がわかるようになりました。台所の鼠、便所のゴキブリ、ゴミ捨て場の烏、そして馬達は、自分達以上に不自由で弱いのに、優しく餌をくれる少年を哀れに思い、いつも励ましてくれました。ある日のこと、小屋の馬達がこんな話をしているのを耳にします。山の洞窟には騎士団の騎士達が束になってかかっても勝てなかった竜がいて、勝てば、王様は大事にしている娘、お姫様の婿にするというのです。少年は決めました。竜に勝って、立派な騎士だと皆に認めてもらおう、と!
少年は竜退治に当たり、物知りな烏に意見を訊きました。すると烏は、竜はいつもお腹を空かせている上に簡単に酔っぱらうから、美味しい食べ物とお酒でもあげておけばどうにでもなる、と教えてくれました。次に少年は台所の鼠に竜の好きな霜降り牛肉と葡萄酒を探してもらい、安月給をはたいて台所の調理人から買いました。それから少年は旅立つ前に便所のゴキブリに挨拶に行くと、ゴキブリは自分も連れて行って欲しいと願ったので、揃って旅立ちました。入り組んだ森を縦横無尽に飛ぶゴキブリのお蔭で少年は容易く竜の待つ洞窟に着きました。
早速、竜は少年に襲い掛かりましたが、彼が持ってきた霜降り牛肉と葡萄酒に目が眩みました。竜は大喜びして肉を食べ、葡萄酒で酔い潰れながら涙を流してお礼を言いました。今まで暴力を振るう騎士はいても、優しさをくれた騎士はいなかったからです。少年らは竜と心を通わせて友達になり、竜は彼らを乗せて城まで帰りました。驚いた騎士達を跳ね除け、王様はこの勇敢な少年騎士を婿にすると、お姫様は心優しい少年を真の勇者と認め、愛しました。少年は弱いもの、嫌われもの、人間扱いされないもの達を思いやり、助ける、名君となりましたとさ。
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