妖精金貨

 むかしむかしあるところに、正直者の若者がいました。若者は幼い頃から何事も正直にあるがままに話すので、子供でいる内は街の大人達からは素直で善い子だと愛されておりました。ところが、大人になるにつれて、彼を見る人々の目は変わってしまいました。人のあるがままを語ってしまう、人に騙される、そんな彼のことを人々は馬鹿だと軽蔑するようになったのです。正直者の若者は、日に日にやつれていき、周りの目に怯え、口をつぐんで生きるようになりました。口は鉛の門の如く固く閉じられ、重く動かなくなってしまったのです。

 ある時のこと、正直者の若者は、森へ出かけました。誰にも見られずに正直に物事が話せるのは森の中だけだったからです。すると、森の中に見たことの無い人間が倒れているのを見かけました。驚いたことに、その背中には蝶の羽が生えていました。若者は蝶の羽の人を抱き上げ、家に連れて帰ると、看病してあげました。暫くして、蝶の羽の人は気が付くと、彼にお礼を言いました。自分は妖精で、遠くの森からやって来て、友達に会いに行くところだったのを、お腹がすいて力尽きた、とのことでした。若者は妖精に食事を与え、回復させました。

 明くる日、若者は妖精を連れ、森に戻りました。無事に友達と再会したところで、若者が帰ろうとすると、妖精は言いました。

「私のことを助け、疑いもせずに付き添ってくれてありがとう。これはほんの少しばかりだが、お礼だよ。三つの魔法の金貨さ」

 若者が三つの金貨を手に取ると、妖精達は木漏れ日に消えてしまいました。若者は不思議なものを見たとびっくりしながら家に帰ると、三つの金貨を宝箱へ大切にしまいました。それから、暫くして若者のもとに人がやって来ました。税を求めに来た強面の役人でした。

 若者はお金を探しましたが、だいぶ前に詐欺師に盗られたばかりでした。そこで若者は勿体無いとは思いつつも、金貨を取り出して、支払おうとしました。若者は役人と話す時、普段なら怯えてたどたどしく話し、汗を滝のように流すのが常でしたが、不思議とこの時は一切そのようなことがありませんでした。金貨は一つ無くなりました。それからまた暫くして、人がやって来ました。難癖をつける近所の人です。

 近所の人は、若者のいびきのせいでよく眠れないと信じており、慰謝料を請求しました。しなければ、いつものように村中から嫌がらせを受けるからです。そこで今度ばかりは、若者は本当のことを話したいのを我慢し、金貨を渡しました。無くなった二つ目の金貨は近所の人の口に塞がって、もう二度と喋れなくさせました。これには二人ともびっくりでした。それからまたしても人が来ました。詐欺師です。

 詐欺師は若者からお金を騙し取ろうと、儲け話を切り出しました。すると若者は怒って金貨を取り出し、物乞いするならくれてやるから、二度と来るなと叫びました。三つ目の金貨は詐欺師の頭に食い込み、鈍らせました。こうして若者は幸せに暮らせるようになりましたとさ。

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習作掌編小説まとめ・異世界ファンタジー 天海彗星 @AmachanKantai

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