盗賊と衛兵と竜

 むかしむかしあるところに貧しい青年が暮らしておりました。青年には職が無く、得ようとしても知恵の無い彼を雇う人はありませんでした。とうとう喰うのに困って、青年は盗みに手を出します。そうなると今度は盗賊団に目を付けられて、無理矢理入れられました。青年は盗賊団に危険な仕事ばかりをやらされる日々を過ごしました。お金持ちの家の衛兵達を引きつけたり、番犬を手懐けたり、重たい金庫を持ち出したり、やる事は大変なのに、盗賊団から渡される分け前は決して高くなく、一日やっと暮らせる程度の報酬が一ヶ月のお給料でした。

 ある日のこと、盗賊団の頭領が金山に盗みに入ろうと言い出しました。盗賊団が金山に入ってみると、王様が配備した衛兵達が疎らにありました。青年は衛兵達を引きつけて、盗賊団が忍び込むのを助けました。しかし、さすがは王様の用意した衛兵達ですから、今度ばかりは青年は捕まってしまいました。王様のものに手を出したとあれば重い罪になり、時には死刑になるでしょう。青年は大粒の涙を流しながら、自分の生き方を後悔しました。すると、金山の奥に忍び込んだ盗賊団が命からがら戻ってきました。盗賊団は皆酷い火傷を負っていました。

 盗賊団は欲を出して金山の奥に入ったために、竜と出会ってしまったのです。盗賊団はそのことを伝えると、皆火傷がもとで息を引き取りました。この竜もタチが悪く、盗賊団を追って、衛兵達に囚われた青年のもとにまで来ました。衛兵達は竜と戦い、ほとんどの衛兵が焼け死にました。生き残ったのは青年と、付いていた女性の衛兵一人でした。さて、こうなっては立場がどうのとは言っていられません。外に竜を逃がさないために、衛兵は青年に力を合わせて、竜を喰い止めることを提案しました。青年は罪滅ぼしのために戦うことを誓います。

 青年はかつて衛兵達を困らせたという持ち前の素早さを活かして竜を翻弄すると、番犬を手懐けるために使っているという眠り薬入りの焼肉を用いて竜を鎮めました。それから、青年は金庫を持ち上げるのに使った腕力を駆使して、あちらこちらの岩で竜を洞窟に完全に閉じ込め切ってしまいました。竜が気が付いた時には青年と衛兵の力によって、金山への入り口は完全に岩で塞がれてしまっていました。竜は動くことが出来ないまま、外に出られず、一生を岩石の覆いの中で過ごすことになってしまったのです。衛兵は青年を連れて金山から脱出するとお城に連れていきました。

 衛兵は王様に、金山に盗賊団が入ったこと、そのために目覚めた竜によって盗賊団と衛兵達が全滅したこと、生き残った衛兵と青年が力を合わせて竜の退治にあたったことを包み隠さず話しました。更に衛兵は無理矢理盗賊団をさせられていた青年の身の上を捕まえた際に聞いていたので、そのことも付け加え、恩情を望みました。すると王様は青年の罪は重いとしながらも、彼が尽力して竜を退治した功績を踏まえ、牢獄送り程度で済ませることにしました。刑期を終えた後、青年は衛兵となり、共に戦った女性と共に、金山を守って暮らしたそうです。

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