騎士の姫と竜
むかしむかしあるところに凛々しいお姫様がおりました。お姫様の暮らす王国は豊かな大地に恵まれた平穏なところでした。しかし、近頃は、竜が近隣に現れるというので、民が怖がっていました。王様は竜退治のために戦う騎士を募りました。すると、一人の騎士が挑みましたが、どれだけ月日が経っても帰ってきません。人々は、きっと騎士は竜に食べられたのだ、と噂しました。そうなると、様子見で手を出さなかった騎士達も絶対に竜と戦おうとしません。途方に暮れる王様を見て、お姫様は決断します。姫である自分が民を救おう、と!
実はお姫様は幼い頃から護身用に武術の類を学んでいたのです。勿論、王様が自分の大事な娘が竜を退治しに行くことに反対するだろう、とお姫様にはわかっていましたから、甲冑で正体を隠して、竜退治に挑むことにしました。さて、お姫様は駿馬を駆ると、竜の待ちうける崖の上の古城へとたどり着きました。お姫様が馬から降りると、古城の前には傷だらけの騎士が一人立ち尽くしていました。髭や髪の毛がぼうぼうと伸びており、もう長い間いることがわかりました。お姫様が騎士に近づいてみると、なんとあの帰って来ない騎士だと判明しました。
「私は名を上げるため各地で武者修行している隣国の王子ですが、竜からは生き残るのがやっとでした。どうか力を貸していただけませんか」
お姫様は快く受け入れると、二人は古城の中へと参ります。中はがらんどうで、誰もいません。伸びている草はところどころ焼け焦げており、竜の吐く炎で燃やされたのだとお姫様は思いました。それから最上階へと昇ると、屋根の砕けたところから、空が見えました。しかし、竜はどこにも見当たりません。すると、騎士が構えて、じっと目の前の空間を見つめています。暫くして騎士は掛け声を上げて駆け抜け、最上階の中央まで来ると、虚空に向かって剣を振り降ろしました。しかし、剣は空中で止まりました。お姫様も剣を抜いて助太刀します。
お姫様は騎士の隣まで走って来ると、目には見えない竜を剣で斬ろうとしました。ところがどうでしょう、お姫様が振り降ろした剣は空を切るばかりで、竜の悲鳴すら聞こえません。もしや、と思ったお姫様は騎士の方を見ました。騎士は唸り声を上げ、みるみる内に身体が竜の姿になっていきます。騎士は竜と戦っているつもりで必死に剣を振り降ろしては止める、ということを繰り返していました。お姫様は騎士の肩を持つと、揺さぶり、正気を取り戻そうとします。騎士が反応しないため、お姫様は思い切って自らの兜を脱ぎ、彼を抱き、耳に語ります。
「騎士よ、しっかりしてください。ここに竜はいません。竜はあなたの中にいるのです。あなたの中にいる竜を退治してください」
声を聞いて、騎士はハッとすると、姿が人に戻っていきました。落ち着いた騎士はお姫様に跪いて礼を言うと、自分の中にいる竜に取り憑かれていたのだと謝罪しました。お姫様は騎士を許し、連れ帰ると、竜に勝った立派な王子として、婿に向かえましたとさ。おしまい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます