なんだかこのまま、この真っ赤な色の中に、桃が消えていってしまうのではないか? とそんなことを梅は思ったのだった。(自分でも、なんで突然、そんなことを思ったのか、全然理由はわからなかったけど)


「どうしたの?」梅を見て桃は言う。

「ううん。なんでもない」梅は言う。


「? ふふ。変なの」にっこりと笑って桃は言う。

 その桃の笑顔を見て、梅はほっとした。(……よかった。いつもの私のよく知っている桃だ)

 二人は中学校まで続いている坂道を下って、街のほうまで移動をする。


「梅は好きな人っている?」

「え?」

 その坂道をいつものように二人で並んでゆっくりと歩いて降りている間に、桃が突然そんなことを言った。

 梅は顔を真っ赤にして驚いた。(夕焼けの色に照らされていたから、桃にはばれていないと思う)

 桃はあんまり、こういった恋の話をするような人ではなかったので、梅はすごく驚いてしまったのだ。


「いないよ。急にどうしたの?」

 慌てた様子で、梅は言う。

「本当に?」桃は言う。

「本当だよ。もう、やだな」梅は言う。


「私、好きない人がいるんだ」

「え?」

 少し無言のまま、一つ目の坂を降りきったところで、二つ目の坂に方向を変える折り返し地点の場所で、桃が言った。

 梅はまた、すごく驚いてしまった。

 桃に好きな人がいるなんてこと、梅はこのときまで、まったく(本当に全然)知らなかったし、その桃の好きな人の検討も全然つかなかった。


「それって誰!」梅は言う。

「秘密」

 歩きながらにっこりと笑って桃は言った。


 梅は一人で立ち止まって、歩いていく桃の後ろ姿を見る。それからはっとした梅は「秘密ってなによ。ちゃんと教えてよ」と言いながら、桃の背中を追った。


 桃はちゃんと歩くペースを抑えて、梅のことを待っててくれたから、梅はすぐに桃のところにまで追いつくことができた。

 梅は桃の手をとった。

「追いついた」梅は言った。(本当は全然追いついてなんていないんだけど)

 梅のことを見て、桃はこういうときの、二人のいつものように、なにも言わずに、にっこりと笑っているだけだった。

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夜明け前 雨世界 @amesekai

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