夜明け前

雨世界

1 私たちはさ、どうしてこの世界に生まれてきたのかな?

 夜明け前


 プロローグ

 

 ……もう、大丈夫だよ。……大丈夫。私たちは大丈夫。


 本編


 私たちはさ、どうしてこの世界に生まれてきたのかな?


「梅。帰ろうよ」

「ちょっと待って。今、行くから」

 そう言って梅は下校の準備をすぐに終えた。


「帰り、どっか寄っていく?」

「ううん。今日はちょっと用事があるから」

「塾?」

「そう。もう毎日毎日勉強ばっかり。やんなっちゃうよね」にっこりと笑って桃は言った。 

 桃は頭が良く梅も所属している進学クラスでも、優秀な成績を収めている生徒だった。

「桃はやっぱり一高を受けるの?」梅は言う。

「うん。まあ、一応」桃は言う。


「大学は? やっぱり、東大を受けるの?」

「うーん。まだわかんない。でも、お父さんとお母さんはそのつもり見たい」廊下の窓越しに、外に広がる空を見て、桃は言う。

「そうなんだ。すごいね」梅は言う。

 その言葉は嘘ではない。

 本当に桃はすごいな、と梅は思っている。(桃が努力家であることを、親友の梅はよく知っていた)


「まだずっと先の話だよ。私たちまだ中学二年生だよ?」桃は言う。

「まあそうだけどさ」笑いながら、梅は言う。


 二人は中学校を出る。


 時刻は夕方。

 世界は赤い夕焼けの色に染まっている。


「真っ赤だね。世界」桃がそんな大きなオレンジ色の太陽に染められる街を見てそう言った。

 梅と桃の通っている中学校は丘の上にあって、そこからは二人の住んでいる街の全景が見渡せた。

「うん。そうだね」梅は言った。

 それから梅は自分の隣にいる桃の顔を見る。

 桃は、とても真剣な顔をして、メガネの奥から、そんな真っ赤な色に染まる街の風景をじっと見つめていた。

 そんな桃の横顔を見て、梅はなんだか、すごく嫌な感じがした。

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