平凡な見た目の女優ミカがアクトノイドという優れた容姿を手に入れ、アクトノイドパフォーマーとして活躍する圧巻のストーリーです。
演技の神というものが存在するのであれば、どうして神はミカに人並外れた美しさを与えなかったのでしょう。そこがストーリーの面白いところでもあると思います。アクトノイドという殻を得て、ミカが自身の才能を武器に勝ちあがっていくストーリーはとにかく爽快です。
作中では演技というものの本質にも触れられていて、ああ、そうか、そうだよなあ、と読み入ってしまいました。演技という世界で生きている人々の真剣な思いがひしひしと伝わってきました。
劇中劇もたくさん用意されていて、ストーリー本編を楽しみつつ、非常に楽しみに読んでいました。これほど考えるのは正直大変ではなかったかなと思います。
色々述べましたがたぶん読んで感じていただくのが一番だと思います。
文章も濃密でありながらとても読みやすいので、充実した読書時間を堪能できると思います。
まずもって素晴らしいSF作品でした。
SFの面白さの一つに未来のテクノロジーが人間社会をどう変革させていくか? というテーマ性があると思います。
面白いSF小説はこの辺りを実に想像力豊かにシミュレートし、さらに上を行くような世界を見せてくれるものです。
この物語に登場するのはアクトノイドという生身の人間そっくりのヒューマノイド。
ただしAIが搭載されているわけではなく、言葉と体の動きをトレースしてくれる、俳優ロボットです。
言ってみればリアルなアバターみたいなものでしょうか。
でもそれだけに実現可能なテクノロジーに思えてきます。
そして物語の主役は実力がありながらも表舞台に立つことが敵わなかった女優「ミカ」さん。
彼女がこのアクトノイドと運命的に出会い、真価を発揮し、演劇界に革命を起こしてゆきます。
まずもってこのストーリーが実に面白いです。
さらに彼女が立つ演劇や映画の世界、これがまた実に熱く面白く語られていきます。
SFはとかくクールになりがちなものなのだとおもうのですが、この物語はミカの成長や葛藤も相まって、実に重厚なドラマとなっています。
とにかく読み応えたっぷりで、感情に満ち溢れていて、読書の楽しみがいっぱいにつまった作品。
ぜひ読んで見てほしい作品です。
演劇系SFもの。
にわかSFファンとしてそれなりに多くのSF作品に触れてきましたが、演劇を題材にしたSFは初めてでした。まず痺れたのが、モーションキャプチャーや仮想現実の技術を発展させたガジェット。アイディアとしては出てきそうなものですが、それを一本の物語として描き切ったのが素晴らしいです。作中で登場する設定を読む度に「盲点だった……」と唸らされました。あと人工知能の限界についての描写もあり、全体としてSFネタの使い方が非常にうまいと感じましたね。
加えて、この作品はSFとしてのテーマが興味深い。物語に登場する「アクトノイド」はアクターとヒューマノイドを合体させた造語であり、いわば「人間の容姿を外注した」存在と言えましょう。それは言い換えれば、身体というハードウェアと、性格や心といったソフトウェア、その二つを切り離した考えであり、作中でも語られる「パーソナリティと演技の分離」という観点からの「人間の外側と内側」という哲学的な問いかけとなっているのです。SF作家の伊藤計劃はかつてサイバーパンクについて「テクノロジーが人をどう変えるか、という問いを内包したSF」と定義しましたが、そういう意味であればこの作品は伊藤計劃流のサイバーパンクに当てはまるといえます。テーマが奥深いからこそ作品のメッセージ性が強調され、エンタメ作品でありながらも強烈な読み応えを生み出しているのは、いち読者として素晴らしいと感じました。
また本筋であるドラマも、たぎるような熱量を感じます。序盤は所謂シンデレラストーリーであり掴みは抜群ですが、後半ではこのシンデレラストーリーが逆転するといった構成はお見事。それまでの設定や描写をうまく活用したクライマックスは圧巻で、非常に満足な読後感を得られるエンディングになっていたのが印象的でした。あと劇中劇が純粋に面白いのもポイント。なんかスピンオフとか何かで劇中劇のみを描いてみるのも面白いかもしれませんね。
あえて難点をあげるとすれば、本編において人物名の間違いが多々あったり、第23話が欠番していたりと、読んでいて混乱してしまう箇所がありましたが、物語そのもののインパクトに比べれば些細な要素でしかありません。読者側の解釈でカバーしきれますし、再度推敲すれば直るものですので、大きな問題ではないです。むしろWEB小説らしくて好感が持てるくらいです。
SFとしてのアイディアやテーマの秀逸さ、さらにヒューマンドラマとしてのエンタメ性、この二つの要素が素晴らしく、紛うことなく傑作だと感じました。というかSF作品を書いたことのあるいち執筆者として「やられた……」という感じで、嫉妬を通り越して感服したレベルでした。とても魅力的なお話であり一気読みしてしまう作品ですので、気になる方は是非とも時間を作って読み込んでほしいですね。面白かったです。ごちそうさまでした。
すでに現代ではボーカロイドという人間の音声をコンピュータに取り込んで、自由に曲を歌わせるソフトが存在するわけですが、この物語にはその更に先を行く発想として、人間そっくりのヒューマノイドロボットを操って演技をする「アクトノイド」という概念が登場します。
主人公ミカは優れた演技力を持ちながら、容姿が人並みであるためにどうしても女優として正当な評価をされません。
仕事が回ってきても「見た目が良い」「スポンサーの意向」などの理由で自分よりも演技力に劣る女優に仕事を取られて忸怩たる思いを抱えていました。
しかし、そんな彼女に転機が訪れます。
ある天才エンジニアが作った美少女ヒューマノイドロボット「アクトノイド」を操縦して役者を演じてもらえないかというオファーが来るのです。
ミカは葛藤しながらも、どんな形でも自分の演技をする場所がもらえるのならと覚悟を決めるのですが……。
物語はミカが「アクトノイド」を操縦しながら、色々な映画や劇を演じることを通じて演技のあり方、人とのつながりを見つめ直していくことで展開していきます。
その一つ一つがアクトノイドというガジェットを生かした想像力を刺激されるエピソードになっていて、登場する人々も個性的で飽きさせません。
文章も読みやすく、話の完成度が高いと感じました。
間違いなく一読の価値があります。
SFヒューマンドラマです。
人口筋肉、人口皮膚によって作られた演技用ヒューマノイド、通称アクトノイド。
オペレーションサークル、オペレータースーツ
などで設定がリアルです。本当に未来にはできるのではないかと思います。
アクトノイドは、人間では危険なアクションや人間がやりたくない役にも最適です。
ルックス重視の芸能界。ルッキズムの深いとテーマとも本作は関わってきます。
アクトノイドが役に立つのは演劇だけではありません。人間では難しい事故にも活躍!
全章でのヒロインの活躍が見物です。アクトノイドの可能性はここまであったか。
強くかっこいいだけでなく、考え方もいいです。
人間の演技とアクトノイドの演技、どちらが上か……ぜひ、本編を見てくださいませー。