熱帯夜に訪れる、無垢な恐怖

うだるような夏の夜にくり広げられる、思わず背筋がゾッとするホラー。
読点なしで一気に語られる冒頭の一文に、壊れてしまった世界へと引き込まれる。

主人公・奈々子がコンビニの帰りに出会い、自らを「金魚」と名乗る不可思議な少女。無邪気でかわいい言動にも思える金魚だが、読んでいてどこか異質なものを感じる。それは「言葉が通じているが、まったく別の思考で会話がなされている」からだと気付く。そこには恨みもつらみも存在せずに、ただ無垢があるばかりだ。

そして鳴り響くスマホ。もの悲しくも怖い結末。

象徴的に語られる金魚鉢という閉鎖空間。
夜に映える赤と金、月と金魚の描写が光る短編です。