第182話



 ケルベロス討伐から一年の月日が流れ、この世界に来て五年、俺はもう二十才になっていた。

 皆と結婚をして新婚ライフの真っ最中。

 予定ではソフィアの手助けをしながらも自由気ままに生きている筈だったのだが……


「カイト陛下、漸く再びお会いできて大変嬉しく存じます」


 アイネアースの謁見の間、リューが片膝を付いて頭を下げている。

 ワイアットさんが王同士だから頭を下げる必要はないと告げるが彼は俺が王で自分は代理だからとその姿勢を継続した。


「待て待て! ここはアイネアースだぞ。女王はソフィアだっての!」

「勿論存じております。我等の宰相だったお方ですから。

 ソフィア女王陛下もご健勝で何よりでございます」


 そう、獣人たちがこちらに来る手段を確立させてしまったが為に、色々な所から呼び出される毎日を送っていた。

 俺が作った国だけじゃない。

 獣王国やワール国、ファスト、ボルト、ルソールと立て続けに使者が訪れる予定となっている。

 今、ショウカからも飛行魔法を教えろとせっつかれているみたいだからそこからもそのうち来ることだろう。

 初めて接触する異種族ということでティターン皇国を筆頭に色々な国から問い合わせが相次ぐ事態となっている。


「お久しぶりね。なんと呼んだらいいのかしら……カイト王、は変よね?」


 えっ、名前まだ変えてないの?


 ソフィアの困惑する声を聞き、リューに強い視線を向ければ彼は自信満々に頷く。


「リューで構いません。我等の王はカイト陛下ですから」

「おい! お前に王を任せるって言っただろ!」

「そう申されましても、今の形が一番皆にとって良いのです。

 コルト宰相やレナード将軍にも了承は取っております。どうかお許し頂きたい」


 ぐぬぬ、あいつらめ……


 とリュー後ろに居る二人を睨み付けるがコルトはニッコリ笑いレナードはニヤニヤとした視線を返した。

 覚えてろ、後で苛めてやるからな……


 まあいいか。そっちで名前を使うだけなら。


 そうして了承をすれば、今度は国に戻ってきて欲しいと言い出した。

 その声には流石にワイアットさんとニコラスさんも静観してはいられない様で声を上げる。


「カイト国王代理リュー殿、流石にそれは頷けませんぞ。

 カイト殿は人族の盟主であるのです」

「ええ、彼を連れて行かれてはこちらの世界のバランスが崩れてしまうのですよ」

「なるほど。しかし、それはこちらも同じこと。

 カイト陛下はこちらの盟主でも御座います」


 はい?

 いや、そっちの盟主になった覚えはないよ?


 集まる視線に首をブンブンと横に振る。

 だがそれでもリューは引く気はないようで「それでは困ります」と声を上げた。

 微妙な沈黙が流れ、仕方なく折衝案を提案する。


「まあ、あれだ。ちょこちょこ遊びには行くからそれで我慢してくれ」

「おお! では、その予定を是非今日にでも!」


 遊びに行くという言葉で彼を納得させ、応接間へと場所を変えて獣人の国々の話を聞いた。

 問題児だったショウカがカイト大帝国と名を変えると宣言したことでひと悶着あったものの、ルソールとの賠償もきっちり行い、南部との同盟を組み交易も開かれたそうだ。

 そこで盟主をどこがやるかという話になり、推薦により俺が選ばれたと言う。


 いや、推薦が出たからって本人に確認しなきゃ駄目でしょ?


 そう言って嗜めようとしたのだが「カイト様が各国を掌握してしまったのもいけないんですよ」とコルトから反論を受けた。

 なにやらその声でソフィアまでもが「まあそれはそうなのだけど」と少し納得を示している。


 掌握なんてしてないが?

 いや、俺が作った国はわかる。

 消滅しかけたショウカもリズが落としたのでわからなくはない。

 けど他の国は関係ないだろ?

 対等な王様としての付き合いしてたんだから!


 訂正を入れるも俺を差し置いて話は進んでいく。

 イラっとしたので「あっそ。じゃあ俺は帰るから」と席を立てばソフィアに「ダメよ」と抓られた。


 そうして進んでいった話を纏めれば、ただ嫁を連れて新婚旅行に行く的な話に落ち着いたのでそれならばと了承した。


 その後、開かれたパーティーで獣人を一目見ようとかなりの人が集まったり、俺にスピーチを求めてきたりと問題も起こったが、無事に終えて彼らを送り返すことができた。


 その日から毎日の様に獣人が訪れ、辟易した毎日を送ることとなった。

 クレアとソーヤの時は良かった。身内だからな。

 だが、その他の国の歓待は真面目にやらなければならず精神的に疲れる毎日だった。

 漸くそれを乗り越えて一段落したと思ったら今度は人族の国々から呼び出しが掛かる。

 獣人だけがこちらに来れる状況は宜しくないので、こちらにも飛行魔法のレクチャーをして欲しいと。

 当然、アイネアースはもう始めていてうちの皆の昼間の仕事となっている。

 王国騎士団、つまりはルンベルトさんたちへと魔法の授業を行っているわけだ。


 という事で、各国から精鋭の騎士たちがアイネアースへと集結することとなった。

 侍、守護騎士、特級騎士、各国の精鋭が勢揃いの状況は圧巻だが、そいつらの用事がすべて俺だというのは頂けない。

 こうなったら即効で終わらしてやると奮起して教材を作り覚える手順を説明し、教材をコピーさせた。

 もう教えるのは慣れたものだ。

 さくさくと覚えさせ思いの他すぐに俺がやることは無くなった。

 まあ、途中テンションが上がったステラが模擬戦を吹っかけまくるという面倒が起こったりもした。

 当然俺が武力にて制圧したのだが、今度は俺に粘着し嫉妬したアンドリューさんからも模擬戦を挑まれたりと厄介極まりなかったが、それもどうにか捌いた。


 よし、これで晴れて自由の身。


 そう思ったのも束の間、今度は獣人の国と渡りをつけて欲しいと要請が来る。

 嫌気が差していた俺はいい加減面倒だとそれらをもう行けるんだからその程度自分でやれとバッサリと断り、ギルドホールに立てこもった。


「ほっほっほ。すっかり人気者じゃのぉ。

 どうじゃ、世界を手に入れた気分は」

「やめてよ。あいつらがそう勝手に思い込んでるだけだっての!」


 茶化すホセさんにジト目を送りテーブルに突っ伏した。


「けど、これでよかったんじゃない?」


 アディの声に首を傾げた。

 一体何がよかったのだろうかと。


「そう……ですね。

 サオトメ様……いいえ、旦那様が退屈しない日々を送れるのはよい事かと」


 いや、ユキ……俺は退屈したいの。


「そうだよねぇ。ダンジョンも制覇しちゃったしねぇ」

「確かにそうね。毎晩一緒に居られる忙しさだし、私も嬉しいわ」


 はぁ……

 エメリーもアリーヤも何か勘違いしてないか?


「何言ってんだよお前ら、制覇なんてしてないだろ」

「はぁ? したじゃない。何処にあそこ以上の難易度のダンジョンがあるのよ」

「馬鹿だなリズは……ダンジョンが人が住む領域だけだと思うなよ?」


 そう。獣人の地域を東に行けば行くほど難易度が上がったのだ。

 ならば更に東に行けばいいだけのこと。

 確かに気軽に行ける距離ではなくなったし、毎日行きたいとも思わなくなったが、それでも完全にダンジョンが飽きた訳ではない。

 張り合いのある場所を見つければ楽しめるだろう。


「あんた、馬鹿じゃないの。

 貴方は、そ、その、お、お父さんになるのよ?」

「はぁ? んっ? んんっ!?」


 もじもじするリズの声に思わず声が上ずった。


「それってもしかして……」


 いや、そんな馬鹿な。

 だってディーナが出来ずらいって言ってたし。


「うん。多分、出来ちゃった……」

「う、う、うおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 思わずリズを抱きしめようとして手が止まる。


「な、なによ! 今更嫌だって言うの!?」

「馬鹿、赤ちゃん居るんだろ、お腹……安静にしないと」

「もう、大丈夫よ。まだお腹が大きくなってもいないんだから」


「そ、そっか」と一先ずの安堵を浮かべたが、何やら皆の様子がおかしい。

 下腹部を愛おしそうに撫でるリズを睨んでいる。

 そしてリズも顔を赤くしながらもそれを挑発するような面持ちだ。


「くっ、最弱なお姉様が何故……悔しい」

「どうして……年齢的に私からよね……どうしてなのですか、女神様……」

「カイトくん! 次は私よ! わかってるの!?」


 え、いや、普通に祝福しようよ。

 ね?


 皆を説得しようと声を掛けるが皆思い思いに耽っている。

 そんな中、ルナ、ノア、エヴァの三人がボソボソと相談を行っている。


 おっ、何か打開策があるのか?

 と期待した視線を向け彼女たちの動向を伺えば、ルナが皆の中心で声を上げた。


「アディさん、こういう時は素直に犯せばいいんだと思う!」


 おいこらルナ!

 お前、こんな時になんてことを!!


 即非難の声を上げたのだが、視線を向けた時には皆の目が赤く光って見えた。

 俺は抵抗する間も無く、皆に引きづられて行く。

 だというのに微動だにせずのほほんと茶をすするホセさん。


「やれやれ……何をしとるんだか。しかし主君の子か……それは楽しみじゃ」

「ちょっと! 助けてよホセさん!!」

「ほっほっほ、楽しみじゃのう……」

「ホセさーーーーーーん!!!」


 俺は彼に涙目で助けを請い続けたが、終ぞ彼がその場から動く事はなかった。


 こうして俺の毎日は過ぎていく。


 その後、俺は適度に尊厳を奪われながらも偶にダンジョンに行き魔物と戦い、家では主導権を取り返す為に全力で戦いと戦い続きの日々を送り続けた。

 なんだかんだで悠々自適で趣味が仕事の生活を確立させた俺は、作り上げた家族と共に、この世界を楽しみ続けた。




――――――――――――――――――――――――――――――


 迂闊な男児、異世界に行く。~俺は迂闊じゃない。きっと全て計算だ~


 完



 途中、新作に夢中になり長いこと時間が空いてしまいましたが、漸く終わりまで書くことが出来ました。

 此処までお付き合い頂き、ありがとう御座いました。

 出来ましたら評価の方も宜しくお願い致します。


 次の新作なのですが、もう少し書き溜め推敲した後に投稿しようと考えているので時間が空いてしまう可能性が高いのですが、宜しければそちらも読んで頂けたら幸いです。


 では、また次の作品で。

 オレオ




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迂闊な男児、異世界に行く。~俺は迂闊じゃない。きっと全て計算だ~ オレオ @oreo1

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