第181話



 昨日急遽決まったお食事会。

 朝からばたばたと準備に追われ、ちょっと無謀だったと反省しつつも皆の頑張りにより割りと上等な会場が出来上がった。

 というか、上等過ぎるので呼び出した人数だけではかなり寂しい感じになってしまう。

 なので急遽人を呼び寄せることにした。

 一先ずお隣さんのルークから。


「そんな訳でさ、お前飯奢るから食いに来ない?」

「今からか!? まあ、構わんが……いいよな?」

「本日は誰も来る予定はありませんけど……

 非公式のものと考えて宜しいのですよね?」

 

 そう問いかけるのはレスト君。

 救出作戦の時に助け出した学生の一人だ。

 ジュリアンや当然ルーナちゃんも同席している。


「俺が適当に知り合い誘ってるだけだからな。これを公式とか言われても逆に困る」


 うん。多分ワイアットさん辺りが。


「ふん。どちらでも構わぬさ。これからは周辺国と手を繋ぐ時代だ。

 外せぬ用事が無いのなら当然出席するぞ」

「それもそうですね……枠は何名程でしょうか?」

「えっと……食事は五十人分らしいから……七、八人くらいまでなら?」


 けど内輪の帰還報告会みたいな感じだから知り合い限定ね。と付け加えて一刻後に迎えに来ると告げてそのまま転移した。


 次はイチノジョウさんだな。

 流石に来れないとは思うけどユキやアカリを預かっているんだからお誘いはしておこう。

 そうしてサクラバ城まで来たのだが、今からだというのに「聖人様からのお誘いであれば是非も無し。ご相伴に預かりましょう」で即了承されてしまった。


 えっ、マジで来れるの?

 しまった……

 これは拙い。ゲート三回出さないといけなくなっちまった。

 ショウカでかなり魂玉を頂いたが三回は厳しいかもしれない。


 急ぎ出立の準備に取り掛かったイチノジョウさんたちを尻目に頭を悩ませて居れば久々に頭に直接響く声が聞こえた。


『大丈夫よ。もたつかなければいけるわ』


 マジで!?


『ええ。それと、アカリちゃんに頼んで私も出席していい?』

「勿論いいよ。アカリがきつそうなら俺でもいいし」

『ありがと。でも短時間だから大丈夫よ』


 と、ディーナからお墨付きを貰い教国、皇国、ウェスト伯爵邸宅からのギルドホールと順番に回り、全員を連れて来れた。

 彼女の言った通り、足りはしたが結構しんどい。

 今日はもう単身でも転移で移動するのもきつそうだ。


 少しふらふらしながらも中へと案内すれば険しい顔をしたワイアットさんにトイレへと連行された。


「カイト! 各国の首脳を連れてくるなど、お主は何をしておるのだ!!」

「えっ……お友達を誘っただけですけど……」

「馬鹿者! こうしたことには儀礼があるのだ!

 我等が先に着いて居ないだけでも格下扱いをしたと取られてしまうのだぞ!」


 おおう。そういう話か……考えてなかった。


「そういう事なら、昨日の話を告知しちゃいましょう。

 そうすればアイネアースの責任じゃなくなるでしょ?」


 そう。昨日の話しとは俺は何処の国にも属さない勢力というもの。

 それを伝えて置けば責任はきっと俺にくるはず。

 イチノジョウさんとルークが相手ならそもそも心配いらないし。


「だからよいという話ではないぞ!

 礼儀を欠く者になってはならんと言っておるのだ!」

「うぐ……気をつけます……」


 どうやら駄目らしい。

 こってり怒られ、意気消沈して席へと戻る。


「カイトさん、皆様席に着かれましたわ。先ずはご挨拶を」


 アリスに促され、皆と向き合う。


「えーと、いきなりの話ですいませんでした。うちの皆やワイアットさんに怒られたんで次回からはもうちょっと余裕あるお誘いをしたいと思います。

 後これは非公式なものでどこかの国に属した集まりではありませんのであしからず」


 少ししょぼくれながらお詫びの言葉を告げれば皆普通に笑ってくれたのでホッとして話を続ける。


「とりあえず、女神様から頼まれた討伐は終わらせて帰ってきたので帰還の報告とこれからも宜しくということで食事会を行いたいと思います。

 えーと……ディーナも話す?」


 アカリに視線を向ければ彼女は頷き立ち上がる。


「これより、女神アプロディーナ様よりのお言葉があります。皆様、ご清聴を」


 続いたアカリの言葉に「なっ、なにっ」とアイネアースと皇国連中が動揺を見せるが間を置かずアカリの体が浮き、黄金の光を放つ。


『我が子らよ。厳しい試練をよくぞ乗り越えてくれました。

 中には不祥事を起こした者もおりましたが、ここに居る者らはとても良い働きをしました。人族、獣人族、すべての母としてとても嬉しく思います。

 イチノジョウ、永きに渡る奮闘、ご苦労様でした。

 ルーク、オーク戦時、貴方の献身が大きな貢献をしました。よく決断しましたね。

 カミラ、ワイアット、よくカイトを補佐してくれました。

 そして『絆の螺旋』の者たち。

 私の知る限り、貴方たちは歴代でもっとも強き者となったでしょう。

 あなたたちのお陰で世界は救われました。

 礼を言います。ありがとう。

 これからも私は見守っておりますから、頑張りなさいね』


 話を終えると、浮いていたアカリの体はゆっくりと地に降り光が収まっていく。

 結構体力を消費するらしいから、後ろから彼女を支え抱き上げて席へと連れて行く。

 座らせて俺も席に戻れば皆が唖然と固まっていた。

 このままだと飯がどんどん冷めていくのでパンと手拍子を打ち視線を集めた。


「さっ、ディーナからの言葉も貰ったことだし食べようか」


 と言った途端にひそひそと小さな声で会話する面々。


「サオトメ、先ほどのは本物ということでいいんだよな?」

「あん、ルークは初めてだっけか?

 人の危機を知らせてくれたのは間違いなくディーナだぞ。

 俺をこの世界に呼んでくれたのもな」

「そうか……本当に見ていて下さっていたのだな……」


 ルークは腕を組み、ルーナちゃんと共にディーナに祈りを捧げた。

 それを不快そうに見るのは教国の面々だ。

 イチノジョウさんはそうでもないが、家老のホウショウさんとアキミネ大臣は「今更か」と呟いている。


 そんな中、場の空気を一新させた者がいた。


「あらあら、女神様に名前を呼ばれてしまったわ。それにお褒めの言葉まで!

 これって凄いことよね、ワイアット?」

「え、ええ。間違いなく。末代までの栄誉と言えましょう……何ということだ」


 カミラおばちゃんの素直過ぎるのほどの喜びの声に、漸く現状を飲み込めたのか面々の空気が一気に変わり、ざわざわと各々雑談が始まる。

 それと同時に食事にも手が付き始めたので俺としても一安心だ。


「サオトメ殿、よくこれほどの面子を集めたね。

 しかし、知っていたなら言って欲しかったな。心臓に悪いよ」

「すみません。全部さっき決まったことだったんで……」


 ニコラスさんが乾いた笑いをあげながら言うが、ディーナの件も含め全てさっき決まったのだから仕方ない。

 そう返したのだが、何故かエヴァンまでもが「だからお前は配慮が足りないと言っている」と間に入ってきた。


「別に悪いことしてないだろ! なぁ、ルーク?」

「私は構わんぞ。皇帝に一刻で準備しろなどとのたまってもな!」


 クククと笑いながらルークまでもが俺を責めた。

 あいつめ、と言い返そうと思ったのだが他からの声の方が早かった。


「こちらなど、その場でよ。信頼の度合いが違うな。はっはっは!」

「これこれアキミネ大臣、非公式とはいえ失礼であるぞ」


 何やら挑発的な言葉だがイチノジョウさんはそちらには顔も向けず、酒を飲み干し立ち上がる。


「その様な事はどうでもよい。今宵、全ての荷が降りた思いだ。

 聖人様、この場にお呼び頂いたことこのイチノジョウ深く深く感謝申し上げる!」


 彼は真剣な面持ちでゆっくりと頭を下げた。

 この場で一番王様オーラが強いイチノジョウさんが頭を下げたことで場が静まる。 


「教国は信託を受けてからが長かったですもんね。

 でもそのお陰でかなり助かりましたよ。

 獣人国では人手が無くて大変でしたもん」

「そうか。至らずながらも責務を果たせたか……うむ……」


 彼が頬を緩ませ感涙に浸ると再び雑談の声が戻る。

 そんな中、ルークは少し浮かない顔を見せていた。


「しかしサオトメ、うちがお褒めの言葉を頂いて良かったのだろうか……」


 なんだよ。

 教国からの野次を気にしてんのか?


「皇国内があの状態なのにお前が出せる戦力全て出して参戦したんだぞ。

 それ以上があるかよ。ルークは間違いなくこっち側だっての」


 その所為で親父さんまで亡くしてんのに。

 責任感強いんだよな、こいつ。


 ジュリアンも俺と同じ思いなのかルークを宥め話に混ざる。


「陛下、今の国の状況は俺たちの所為ではないですよ。

 責任は勿論ありますが、是正は今取り掛かっているじゃないですか!」

「ちょっとジュリアン、ここでそういう話は拙いよ!」


 何やら楽しそうなので俺も身内の方の話へと混ざる。


「あらお婿ちゃん、やっとこっちに来たのね。私もお客様なのよぉ?」


 と、のたまうおばちゃんはアレクを抱きかかえ頭を撫で撫でしていた。

 相変わらず苦手のようでアレクは両手を膝に置き固まっている。

 ご家族もはらはらした目で様子を伺っていた。


「わかったから、ご家族の前ではやめてあげて。可哀想でしょ?」

「あらぁ、可愛がってるのよ。何で可哀想なの?」


 ほら、とアレクを退かしてやれば変わりにと言わんばかりに今度は俺が捕まった。

 正直やめて欲しいがいい加減慣れたのでされるがままになりながら話を続ける。


「その、長いことアレクを連れ回しちゃってすみませんでした」


 初対面のご家族に長期間家を空けさせたことを謝罪したが「とんでもない! 名誉伯爵様のお役に立て光栄極まりないことです!」と逆に嬉しくない言葉が返ってきた。

 アレクとはこれからも遊び続けるだろうからこのままで終わりじゃ良くないとアレクを出しにしてこいつの武勇伝を伝えて話を盛り上げた。


「まさか、うちのアレクがそれほど……」

「だから強くなったんだってば! 僕はもう騎士に成れたんだよ!」


 いや、騎士の基準ってこっちだと二十五階層とかだろ。

 お前もうこっちなら百階層とか行ける筈だぞ?


 相変わらずずれたことをドヤ顔で語るアレク。

 おばちゃんから開放され元気一杯だ。


「そう言えば、レナード殿たちがおらんな。まさか……戦死されたのか?」


 そう物騒なことを問いかけてきたのはウェスト伯。

 どうやら、オルバンズ戦の戦勝パーティーで声を掛けていたそうだ。


「いえ、あっちで作った国で総大将とか宰相やってますよ。

 ソーヤなんて女王の王配です。世の中わからないもんですよね」

「ちょっと待て。話が読めんぞ。国を作っただと!?」

「国を作ったって意味すらわからないのか? 馬鹿め!」


 昨日の仕返しだと絡んできたエヴァンに言い返した。

 だが、特に気にした様子はない。解せん。

 毒気を抜かれた俺は普通に言葉を返す。


「特に気にする必要ないだろ。移動ができないんだから国交も何も無いんだし」

「いやサオトメ殿、飛べるのは貴殿だけなのかい?」


 ヒューゴも話しに入り、とうとうアイネアース勢全員の視線が向く。


「いや、うちの皆は飛べるけど?」

「なら関係あるだろうが、馬鹿者め!!」

「なんだと!? いいのかぁ?

 俺は名誉伯爵だかんな! 名誉毀損で訴えてやる!」


 お返しに苛めてやると権力を盾にしたのだが、突如大人勢に囲まれた。

 もうちょっと待ってとエヴァンに絡もうとするが、ワイアットさんを筆頭にウェスト伯、ニコラスさん、ルンベルトさんが俺の行く手を阻む。


「待て、移動が出来ないと申したが、獣人に飛べる者は居らぬのか?」

「居ませんて。だから考える必要はないんですよ。通信魔具は貰いましたけど」

「関係はどの程度だ。友好を保っているのだよな?」


 ワイアットさんから問われ仕方なくエヴァンへの報復を諦めれば立て続けにルンベルトさんからも問われた。

 仕方がないので「アレクが全部知ってます」と話を彼に投げた。


「ちょ、何で僕なんだよ!」

「お前、さっき助けてやっただろ!? じゃあおばちゃんの懐に戻るか!?」

「あらぁ……お婿ちゃん……それはどういう意味かしらぁぁ?」


 おおう。怒った時のリズみたいだ。

 一時撤退だとユキとアカリを連れて教国勢の方へと非難。

 これで手は出せまい。


「お邪魔するわねぇ」

「――――っ!?」


 そう思っていたのだが、カミラおばちゃんは後ろにいた。

 大丈夫。流石にここに居ればおばちゃんも暴れられない筈。

 そう思っていたのだが、いつの間にか頬を抓られていた。


「今度からはせめてお母さん、もしくはお姉さんと呼ぶのよ?」

「は、はいぃ……」


 驚いているイチノジョウさんたちに事情を話せば彼は快活に笑った。


「はっはっは。相変わらず小気味良いご婦人だ。

 あの聖戦会議の時から貴方とは話してみたいと思って居った」

「あらぁ、私もよ。聖アプロディーナ教国は海が近いでしょ?

 一度見てみたいのよね。どんな風景なのかしら……」

「では是非来られるといい。

 来られた暁には海鮮料理も含め、ご案内させて頂こう」


「まあ嬉しい!」とガチで行く気のカミラおばちゃん。

 イチノジョウさんにこっそり「いいんですか? 本気にしますよ」と問いかけたが、彼もどうやら本気で言っていたようで「それは楽しみだ」と笑みを見せた。

 

 そうして特に問題が起こることなくお疲れ様会は終わりを告げた。


 ゲートで来た面々には明日の朝送り届けると約束して一泊して貰い、夜はルークとルーナちゃんをからかって遊び、約束通り早朝、皆を家まで送り届けた。


 よっしゃ!

 これでやることは全部やった。

 後はのんびり過ごすぞ!


 そう息巻いてギルドホールの自室で横になった。

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