現実社会との狭間で揺れうごく純粋で無垢な美しさを、忘れたくないと思った
- ★★★ Excellent!!!
本には出会うタイミングがあると聞いたことがありますが、私もある程度大人になってからJ・D・サリンジャーの作品に出会い『きっとあの頃出会えていたら生涯の友となり得ただろうな』と思ったことがありました。
この作品との出会いは、その時の感覚に非常に近いものがあります。
語り口や文体が作品とリンクしていて、些細な描写一つすくってみてもきっと無駄な所がないといいますか、作品の隅々まで瑞瑞しい情感が宿っているような、どことなく小川のせせらぎのような優しさが作品全体に息づいているような、そんな魅力があります。
なぜこんなまどろっこしいレビューを書いているのかというと、明らかに素敵な作品であるのに、おそらく私があれこれ声高に書いたところで結局この作品の良さをかき消してしまうか読み手のじゃまにしかならないだろうというのが予想出来るからで、正直いままで書いたレビューで一番悩みました(的を射ないレビューでスミマセン)。
世の中や大人の狡さが垣間見えたり、一方で自分の中の未熟さが許せなくなったり、それでも大人に頼らずには生きていけない現実があって……。
そんな苦しい時期にこの作品に出会えたら、きっと救われる人は少なくないだろうと思います。
胸がじんわりして、誰かに優しくしたくなるような、素敵な作品です。ぜひ、ご一読ください。