主人公である「私」の目を通して描かれる、クラスのお騒がせ男子のお話です。
冒頭から笑える描写が多く、登場人物も個性的であっという間に作品世界に引き込まれます。
小学生から楽しく読めることでしょう。
でもこの物語、それだけではないのです。
後半は深いところに迫っていきます。でも決して陳腐にはならず、小学校六年生なりの精いっぱいを見せる形を取ります。
ここが特に素晴らしいと思いました。
笑える描写が多いようでいて、ふっと、心の深いところに訴えかけてくる美しい作品です。
素晴らしいものを読ませて頂きました。
ありがとうございました。
本には出会うタイミングがあると聞いたことがありますが、私もある程度大人になってからJ・D・サリンジャーの作品に出会い『きっとあの頃出会えていたら生涯の友となり得ただろうな』と思ったことがありました。
この作品との出会いは、その時の感覚に非常に近いものがあります。
語り口や文体が作品とリンクしていて、些細な描写一つすくってみてもきっと無駄な所がないといいますか、作品の隅々まで瑞瑞しい情感が宿っているような、どことなく小川のせせらぎのような優しさが作品全体に息づいているような、そんな魅力があります。
なぜこんなまどろっこしいレビューを書いているのかというと、明らかに素敵な作品であるのに、おそらく私があれこれ声高に書いたところで結局この作品の良さをかき消してしまうか読み手のじゃまにしかならないだろうというのが予想出来るからで、正直いままで書いたレビューで一番悩みました(的を射ないレビューでスミマセン)。
世の中や大人の狡さが垣間見えたり、一方で自分の中の未熟さが許せなくなったり、それでも大人に頼らずには生きていけない現実があって……。
そんな苦しい時期にこの作品に出会えたら、きっと救われる人は少なくないだろうと思います。
胸がじんわりして、誰かに優しくしたくなるような、素敵な作品です。ぜひ、ご一読ください。