読み終えた後、寂寥感に包まれました。
でも、寂しさだけじゃない。ほんのり温かな思いも、心の中で確かに灯っていました。
終末の世界……一体、どれほど寂しいものなのでしょうか?周りに映るものは全て『静』。いや、『止』と言った方が正しいかもしれません。自分だけが動く世界に取り残された気持ちなど、私には想像することもできません。
そんな世界に佇む人形。感情という素晴らしくもあり、厄介ともいえる機能を備えて。
凍った世界でただ一人、人形は何を思うのか。何を感じるのか。何を感じてしまうのか。
ひとこと紹介に乗せた言葉はこの作品で使われているものです。この言葉を見て私は鳥肌が立ちました。
『笑顔が素敵な人』とか『笑顔が可愛い人』なら月並みの言葉ですが、ここでの表現は『笑顔な人』。簡素な言葉に見えて、ここに詰まっている思いは計り知れません。
文章の構成も見事です。
この物語は三話に分かれているのですが、メインの人形である'ソフィア'の容姿に関して、一話目と二話目では一切描写がありません。そして、三話目でやっと私達の頭の中にソフィアが現れてくれるのです。それまで、色々と想像しながら読んでいた読者の枝分かれした道が一本にまとまる……思わず唸ってしまいましたね。
短編ですが、読みごたえはしっかりある作品です。皆さんも是非一度足を運んでみてください。
すべての生物が消え失せた終末世界。
そんな空虚な場所に遺された感情人形のソフィアは、他の三体の人形と出会い……。
人の手で作られた人形が、人類が死に絶えた世界に生き残ってしまう。
ここに大きな不条理さを感じます。
AIであればそういう映画があったかもしれませんが、この物語はまったく異なります。
感情があり話すことはできるけれど動くことの叶わない不自由なソフィア。
魔女が作った人形三体と出会い、ソフィアはある決断をする。
それは自身がかつて過ごした環境を思い、そこへ帰依する理を見出したから。
廃墟となった終末世界で、大切な何かを見つけ、回収するように旅を続ける三体の感情人形。
彼女たちの行方にはまだまだ行き場を失くした同胞が待っているはず。
退廃的なのに美しい、そんな物語でした!