始まりの吸血鬼

瀬道 一加

始まりの吸血鬼

 昔々あるところに、一人の男がいた。


 男はある国の王だった。

 王は強く、野心に溢れ、自らの足が踏む地上に存在する、全てのものをほしいままにした。



 その権力と富と成功は、多くのものの妬みを買った。


 ある日、腹心の裏切りにより、男は囚われ、幽閉された。

 殺されなかったのは、苦しみを味わわせるため。



 牢獄の中、王は激しい怒りに身を震わせた。


 全てを奪われ、自分を裏切った者たちの繁栄を見せつけられ、腑が煮えくり返るような憤りが男を支配した。



 そして何より、自分がいなくとも回る世界が許せなかった。



「私は王だ。

 この世界の全ては私のものだ。

 私のもののはずなのだ。


 私無くして、この世界は回ってはいけないはずなのだ。」



 王は決して認めなかった。


 自分のいなくなった世界を、決して認めなかった。


 牢獄の中、耐え難い空腹に苛まれながら、王は決して屈することはなかった。




 ―――この世の全ては、私のものであるはずなのだ。




 激しい怒りは、王の力に異変を起こした。



 王の恨みが、裏切り者たちの夢に現れ始めた。


 恐ろしい夢に苦しめられたある者は、王の処刑を命じた。

 しかし使いの者たちは、王の姿を見ると、身動きを取ることができなかった。

 刃を振り下ろすどころか、ギラギラと睨む目に釘付けられたように、指一本動かすことができなかったのだ。



 王は他人の夢と、その目を見た全ての者を、意のままに操った。




 そして、ついには、牢獄から一歩も出ずに、再び全てをその手中に収めたのだった。






 全てを取り戻した王だったが、失ったまま、取り戻せない物もあった。



 水を除くあらゆるものが、喉を通らなくなっていた。


 身体が何も受け付けなくなり、何を口にしても吐き出してしまう。


 飢えに衰弱していく身体とは裏腹に、王の生への執着は大きくなる一方だった。




 とうとうある日、

 王は近くにいた者に食らいつき、

 その血を啜った。



 そしてその日から、



 人間の血だけを飲み、



 世界の全てを支配し続けた。

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始まりの吸血鬼 瀬道 一加 @IchikaSedou

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