私たちの歌で、この場をしのげるのなら――。

 主人公たちにとって、その日は特別な日だった。主人公たちがいるのは、ライブ会場の楽屋。もうすぐ出番だった。緊張をするメンバーや、チュウニングするメンバー。それぞれが、今日のライブを盛り上げようと、最善を尽くす。ライブ会場は盛り上がっているらしく、観客たちの大歓声が、楽屋まで響いてきた。
 そんな中、ライブ会場会場で主人公たちが目にしたのは、地獄絵図だった。そう、主人公たちが楽屋で耳にした「大歓声」は、逃げ惑う観客たちの阿鼻叫喚だったのだ。血が滴り、ギクシャクと蠢く人々。そんな人々から逃れるために、叫びながら逃げ惑う人々。もはやホラー映画に出てきそうなゾンビが、目の前で、正常な人を次々と襲っていた。恐怖と混乱の中、一人の女性が、ステージに立った。それは紛れもなく、主人公たちのボーカルだった。
 ボーカルの女性は、眼前の光景を無視するように歌い始めた。この窮状を凌ぎ、人々を救うまで、歌う。脳裏に浮かぶのは、バンド名を決めたときのこと。バンドメンバーも、観客も、それらの人々がいたからこその自分だ。そして、自分にできることは、歌うことだ。
 
 場所がライブ会場に固定されている状態での、珍しいパニックホラー。狭く暗い中に、決められた登場人物でこのような話の展開。人物描写や状況描写が巧く、とても高い文章力で引っ張られる感覚があります。

 是非、御一読下さい。

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