石炭と水晶まで読み終わった段階になりますが、兎にも角にも世界観の作り込みが他の作品と一線を画します。
通常ライトノベル作品にありがちな「盛り上がりを作るために仕込まれたとってつけたような設定」がこの作品にはありません。
経済、歴史、流通、全てが予め決められていて、話の展開に応じて地の文あるいはキャラ間の会話で出されます。
詳細な情景描写も見事の一言で、いつの間にかその世界で生きているような錯覚を覚えます。
作品に没入感が欲しい方、普段とは違う系統にチャレンジしてみたい方は一度読んでみてください。
この作品の虜になること間違いなしです。
創作した世界をリアリティのある世界と感じさせるのは、異世界ファンタジーというジャンルで物語に没入していくために重要な要素だと思います。
物語の誕生と同時に産声を上げたような世界を舞台にした異世界ファンタジーが多くある中、この作品では、人、物、金の流れなどに触れつつ重層複合的な世界の創出に成功していると言えます。
確かにそこに新たな世界があって、そこで暮らす人々の息遣いが聞こえてきそうなほどです。食料一つをとっても、その世界観の一片が見えてきそうな精緻な表現ぶりです。
普遍的な異世界ファンタジーにおける、表面的な華やかさの影をも表現し、大変読み応えがある作品と感じます。
産業革命期の息吹と神話的背景が織りなす産業革命期の機械文明と魔法体系が交錯する壮大なスケールで、物語の深みと世界観の広がりを見事に描き出しています。
セレール商会のグレンやユーリが革新を模索する姿勢、そして学志館で繰り広げられる学問と冒険の息吹が、それぞれ異なる視点で文明の成長と課題を浮き彫りにします。特に、デカート市の歴史的背景と地理的特異性を活かした設定が秀逸で、物語の舞台を単なる背景以上の存在に昇華させています。
また、時代の波に飲み込まれながらも、新たな可能性を追求する人々の生き様が、重厚な歴史的背景と融合し、どこか郷愁を感じさせます。登場人物のボーリトンの視点から垣間見る日常の皮肉や小さな成功が、壮大なテーマの中で程よいリアリティと親近感を与えています。特に、封蝋や公証に象徴される「公の秩序」というテーマが、彼自身のアイデンティティと重なる瞬間は感動的であり、私たち読者に静かに訴えかけてきます。
歴史の重みと未来への希望を融合させ、読者を魅了する本作は、単なるファンタジーにとどまらず、文明の在り方を深く問い直す珠玉の一作です。