第8話 ⑧
気がつくと首都高の下にいた。
コインランドリーの照明が少し後ろに見えた。足元には小さな川。清流とは程遠いドブ川が首都高からのこぼれた光に映る。ドブ川に相応しい小汚く小さな橋。あたしは今、そこにいる。
― なぜ?
比重がすっかり逆転したあたしの意識が自分に問う。その瞬間、散乱したペットボトルと桐谷に手渡したあのサンプルが脳裏に浮かぶ。映像はすぐにアメーバーのようにグネグネと動き、工事現場で重機にこねくりまわされた泥水のようになった。
ジュリアス、あたし達は清潔な存在かしら?
ミツル、あたしは清潔よ。あなたに理解されなかったとしても。
あたしには音も光も臭い匂いも判別がつかない。正確にいえば、それらがいっぺんに叩き付けられている感覚が消えない。
それらに潰され、こねくり回される。あたしは抵抗が出来ずにただ翻弄される。感情が湧き上がり、乱れる。
憎い、悔しい、とても悔しい。
頭上の騒音も、川に浮かぶ汚泥も発せられる悪臭も何もかもが憎む対象になった。あたしは震える手で2918を投げた。
寒さで気がついた。
唯一残った、判断できる感覚かもしれない。目を開けると回転は止み、霞んだ視界が広がっていた。その端にポーチが映る。震える指先で煙草を探し、細めのケースを取り出すと、中に数本の煙草があった。
あたしは中から一本取り出し、目の前にライターをかざした。
いつの間にかポーチの中に入っていた100円ライター。霞みの向こうに見えるデザインはチルチルミチルの青い鳥。じーっと見つめ火をつける。
爆破。
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