第5話 ⑤



「そもそも、この薬物は精神異常者や犯罪者の更生を目的として開発されていました。その後、健康自動育成や、健康改善への利用が考えられていたのです。そして、その目的に適した効果も得られました。」


「スゴイ、立派」


「ですが、状況が変わりました。」


「ふーん」


 想像は容易い。陳腐すぎる展開など知りたくも無い。


「洗脳です」


「あー。やっぱりね」


 結局、こうなる。権力者は安価なロボットをいつも欲しているのだ。


「この薬物効果を知った政治家が、浄水場実験や給水車での実験を計画しました。このように利用されてしまうのは、政治家の“欲”の所為でしょうね。」


ロボット化で利益を上げた、その最たる人間がぬけぬけと言った。


「悲惨ね。」


あたしの本心だ。


「本来の目的から外れ、使用されている発明はいくつもあります。ノーベルのダイナマイトがその最上でしょう。」


「この場合、研究者にノーベルはいたかしら?」


「どうでしょうね。」


再び吐き出された煙で視界が霞んだ。ミツルを思い出す。

あの研究所のスタッフの一人だった弟。ジュリアスと共に吹っ飛んだ弟。ミツルはノーベルのように苦悩したと信じたい。


「えーっと、それでは、何すればいいのかしら。徴兵制をブッ壊せって言わないわよね。」


「はい。」


桐谷はぴくりともしない。


「時代は流れています。大きな流れです。それを変えることは個人の力では難しいと思います。私たちはその流れを見極め、利益を得、生きていくしかないのです。」


この考え方が、TTKを小さな地下組織から世界的なテロ組織へと変えたのだろう。


「敗戦後の好景気、その先の不景気、そしてそこからの脱するための全体主義化・・どれも流れに沿っています。この流れを変えるのは人間の生活システムの破壊、つまり、文化、思想のリセットしかありません。この類の話はあなた方“RSTT”の方がお詳しいと思います。」


「………。 」


あたしは何も言わない。あたしはバーのママでしかない。


「時代は変わります。それは、兵器の世界、テロの世界でも同じです。核兵器などの大量破壊兵器の時代から細菌などのバイオ兵器、サイバーテロの時代になりました。そして、さらに時代は変わります。」


煙草を灰皿に押し付ける。あたしはポーチから自分用の携帯型灰皿を取り出した。その合間に、チラリと桐谷は時計を見た。


「核兵器、バイオ兵器、サイバー攻撃はそれぞれ利点、欠点があります。分りますよね。」


あたしは頷く。それらはTVや映画のネタとして盛んに使われた。


「これからはどのような兵器が登場するのか、興味ありませんか。」


「あんまり。」


桐谷は頷く。


「TTKはこれからのを兵器を模索しています。ニーズがどのように変化しているか常に考えています。」



「商売熱心ですね。」


「当然です。」


あたしの嫌味を無視して桐谷は答えた。


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