エピローグ
――カズくんシンドロームの時間だよ! 今日は『復活祭スペシャル』だから、みんな、どんどん祝ってね。うん、そうそう、俺、喉のポリープ取ったんだぁ。おかげで、声の調子も元通り。これからは、またライブも精力的にやってくから宜しくね!
画面に顔を赤くしたカズが映っている。どうやら酔っぱらっているようだ。
コメントには「久しぶりの配信wkwk」「復活おめ」などと流れていく。
――実はね、今日は快気祝いと称して鍋やってたんだけど、みんな騒ぎ疲れて寝ちゃったんだよ。主役の俺を残して撃沈するとか酷くない?
確かに、カズの後ろにごろごろと数人転がっているのが映っている。
――そういえばさ、正式に陸は俺ん家に住むことになったんだ。へへ、何でだろ。俺も良く分かんないんだけどね。でも、楽しいから大歓迎!
カズは相当酔っているのか、手を叩いて笑い出す。
――俺がいないと家に帰れないって陸に言われて、一緒に家に行ったのよ。そしたら、陸の母ちゃんがさ、別人のように性格が変わってて。陸を見た瞬間『よく頑張ったわね!』って、陸を抱きしめたんだ。あの母ちゃんがだよ? あれ、あぁ、そうか、みんな知らないか。そりゃそうだよな。でもまぁ、とにかくびっくりしたわけよ。
カズは、ちょっとしんみりとした表情を浮かべて、缶ビールをぺこっと握った。
――陸の母ちゃん、琵琶湖フェスの選考ライブ、わざわざ観に来てたんだってさ。陸が堂々と人前に立って、立派に演奏してるの見て、すべてを応援しようと決めたって言ってた。最終的に、これからも陸のことお願いしますって言われてさ、陸の荷物を渡されたんだよねぇ。ちょっと意味わかんなかったけど、でもなんか、嬉しいよね、認めてもらえるのって。
カズは鼻をすすった。目元には涙が少し滲んでいる。
――だから、これから、もっともっと、煉獄シンドロームは上を目指していくから。みんながびっくりするような音楽を届けるよ。だから、お楽しみに。
カズは腕で顔を隠した。多分、泣いているのだろう。
――じゃ、じゃあ、今日はもうここまで。またね!
カズがバイバイと手を振る。そして、配信は終了したのだった。
【投稿作Ver.】音風シンドローム 鳴らせ、運命のイントロダクション/石川いな帆 角川ビーンズ文庫 @beans
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