第7話関所

「おじいちゃん、おいしね!」

「そうだね、とても美味しいね。これも若様の御恵みだから、感謝するのだよ」

「うん、おじいちゃん」

 ルイはダイに命じて、狩った狼の肉を料理させたのだが、ダイやルイには不味い狼の肉も、飢え死にしそうだった村人にはごちそうだった。

 だが村人が狼肉を食べられるまで回復するには、三日もかかってしまっていた。

 それまでの間は、ルイが国から持ってきた米や麦を使って粥を作り、それに塩を加えたり野草を加えたりして病人食としていた。

 そして村人を護るためとは言え、密猟を行ったことになるダイは、ルイに内緒で多くの獣を狩り、非常用の食料を確保しているのだった。

 貧しい食事にも慣れているダイはともかく、王宮で美味しい物ばかり食べていたルイも、村人と一緒に狼肉を食べていた。

 不味い物を我慢して一緒に食べる事は、偽善と言えるかもしれないけれど、ルイは自分だけ美味しいものを食べることが出来なかったのだ。

 十五人の老人と幼子が歩いて旅が出来るところまで回復するには、更に七日もかかったが、幸いその間に刺客が襲って来ることはなかった。

何とか領地を出るために関所に向かって歩きだしたものの、老人と幼子を連れた歩みは遅く、ルイとダイだけなら一日でたどり着くところが、三日もかかってしまった。

何とか関所にたどり着いたものの、関所を守る兵は横暴で、村人が領内を出る事をなかなか認めなかった。

「そんなことを申されましても御役人様、我々老人と幼子だけでは畑を耕すことも狩りをすることも出来ません。王領に出稼ぎに行くしか生きていけません」

「その方たちの生き死になどどうでもいいのだ! 領民が勝手に出ていくことは認められん。それだけの事だ」

「そんな殺生な! どうかお慈悲を持ちまして、関所を通してください」

 老人たちは土下座して頼んだが、横柄な役人は一切慈悲をかけることなく、冷たく乱暴な言葉で拒絶するだけだった。

「せめて幼い子供たちだけでも通してやっていただけませんか?」

「ならん、ならん、ならん! これ以上つべこべぬかすとこの場で斬り殺すぞ!」 

冷酷非情な役人は、剣を抜いて老人に突き付けたので、たまらずルイが助けに入ろうとしたが、ルイに危険が及ばないように、すばやくダイが間に入った。

「お役人、領民をむやみに殺してしまったら、領主に税が入らなくなってしまうのではないかな」

「ふん! こんな年寄りと子供など、大切な食料を無駄に喰うだけで何の役にも立たんわ! 今この場で殺してしまった方がご領主様の為だ!」

「なんてことを申すのだ! この人でなしが!」

 普段はとても温厚なルイが思わず激怒してしまったが、それが短気な門番を怒らせてしまった。

「ベルト王国の貴族の坊ちゃんだろうが、この国では何の特権もないのだ、文句を言うなら殺してしまうぞ!」

 門番がルイに暴言を吐き、剣を振り上げたことがダイの逆鱗に触れてしまった。

 ルイもダイもこの国で問題を起こす気など毛頭なかったのだが、ミカサ公爵家の婿入りする予定のルイは、ダイにとって大切な主君となっていた。

 怒り狂ったダイは自制が出来なくなり、ルイや子供たちが見ている前で、関所を守る役人と兵の十一人を瞬く間に斬り殺してしまった。

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