第11話暴れ猪
無事に交渉が終わり、ルイの率いる難民たちと隊商は、一緒に旅をすることになった。
山賊との戦闘で負傷した者は、ダイの回復魔法で怪我は治ったものの、失った血液までは直ぐに増えないので、幌馬車に乗って移動することになった。
死んでしまった護衛四人が減って、残った二十一人の隊員うち十人が幌馬車に乗り、四人が御者を務め馬を操り、七人が歩いていた。
ルイが率いる十五人の老人と幼子も馬車に乗せてもらっていたが、身体の小さな幼子がいるので、狭いながらもなんとか幌馬車に乗る事が出来ていた。
幸い領主軍の追撃もなく、ダイが保管している狼肉を、野草と一緒に焼いたり煮たりして食事に提供する事で、ルイたちと隊商の間にいさかいが起こることもなかった。
「ルイ様、獣がいらだっているようでございます」
「そうのようだな。襲って来ると思うか」
「恐らく襲って来ると思われますが、先手を打ちますか?」
「森の獣を狩ったら、領主に罪を問われてしまうのだったな」
「いまさらとは思いますが、いちおう先日の戦いは領主軍ではなく山賊となっておりますので、ここで獣を狩ってしまうと、領主に付け入るスキを与える可能性があります」
「それは嫌だね」
「はい」
「ここはリーダーの判断を待つことにしよう」
「リーダーに教えますか」
「そうしてくれ」
ダイは先頭を歩くリーダーに近づき、左右に広がる森に異変があり、獣たちがいらだっているので、ふいに襲い掛かってくる可能性があると助言した。
それを聞いたリーダーは、六人に減った護衛に、こちらから森の獣に攻撃してはいけないが、もし襲い掛かってきたら躊躇せずに殺せと指示した。
一時間ほど進むと、最後尾を歩いている護衛の左から巨大な猪が現れ、護衛の足の間に頭を入れて牙を突き上げ、護衛の内股の血管を切り裂きながら吹き飛ばした。
猪の攻撃を予見していたダイは、即座に銅級治癒魔法をかけて護衛のけがをなおしたが、猪を倒そうとはしなかった。
倒された護衛の一番近くにいた、別の護衛が猪に向かっていったが、槍を振るう事も出来ずに、最初に吹き飛ばされた護衛と同じように宙を舞うことになった。
またダイが即座に犠牲者に銅級治癒魔法を使ったので、あまり血を失うことなく元の状態に戻れたものの、とても猪に立ち向かえる精神状態ではなかった。
急ぎ別の護衛が槍を振るって猪を迎え討ったものの、剛毛と硬い皮膚に厚い脂肪で守られた猪に致命傷を与えることが出来ず、またも宙高く吹き飛ばされダイの治癒魔法に助けられることになった。
さらに幌馬車に向かって突進する猪に対して、女戦士がふらりと立ちはだかり、無造作と言えるほど予備動作もなしにハルバードを振るい、一撃で猪の頭を粉砕してしまった。
倒した後で計ってみたら、体長二百八十五センチメートル・胸囲百八十八センチメートル鼻先から後足の蹄まで三百二十三センチメートル・体重四百七十七キログラムもあった。
猪が軽く倒した護衛たちは、三人とも鉄級の護衛だと名乗っていたから、猪の強さは銀級以上だったと思われる。
その銀級以上の猪を軽く倒した女戦士は、最低でも金級の実力があると思われた。
「ここで休憩するぞ。自衛のためとはいえ、猪を倒したのが領主に知られたら何を言われるか分からないから、急いでここで喰ってしまおう」
「「「「「おう!」」」」」
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