第12話待ち伏せ

 ルイ達一行は、大猪に襲われた場所で休憩を取り、猪料理に舌鼓を打ち、急ぐことなくゆっくりとした旅を続けた。

 山賊に偽装して襲ってきた領主の土地を出る前に、脇街道に設けられた緊急用の休息地で野営し、老人や幼子や血を失った元負傷者に負担にならないようにした。

 場合によっては山賊に偽装した領主軍が再度襲ってくる可能性もあったし、偽装もせずに堂々と襲って来ることも考えられたので、疲れた状態で襲われないように、ゆっくりと旅をしていたのだ。

 特に休息する場所や野営する場所は大切で、飢えた獣に襲われるのも危険だが、領主軍に奇襲や夜襲を仕掛けられては困るのだ。

 もちろんルイとダイがいるから、たかが領主軍に奇襲も夜襲も許すわけはないのだが、護衛を四人も失った隊商のリーダーは、とても慎重になっていたのだ。

「このおにくもおいしいね」

「そうか。おいしいか。もっとたべる」

 夜の食事の時も、黒い肌の女戦士は幼子を優しく世話していた。

 隊商の中で一番腕の立つ護衛だから、率先して巡回しなければいけないはずなのだが、野営の中央でゆっくりしていた。

 そんな行動を不思議に思ったルイが、隊商のリーダーに理由を聞いてみると、一番戦闘力のある女戦士が奇襲を受けると困るので、何があっても支援できる中央に陣取ってもらっているそうだ。

 今回の旅では、腕の立つ護衛を女戦士しか雇うことが出来ず、他は銅級や鉄級に昇格したばかりの冒険者だったので、そう言う変則的な布陣になってしまったのだそうだ。

 小休止を終えて二時間ほど馬車を進めていると、先の方で争う気配がする。

「ルイ様、お気づきですか」

「争う気配がするね。魔物ではないけれど、相当強い獣と人間が多数で争っているね」

「はい。人間は恐らく領主の集めた軍でしょう。獣は縄張りを荒らされた獣か、飢えて狂暴になった獣でしょう」

「リーダーに教えておいてくれ」

 ダイから状況を聞いたリーダーは、少しだけ考えて小休止することにした。

 山賊なのか領主軍なのか分からないが、人間が獣を撃退した場合は、間違いなく次は自分達に襲い掛かってくる。

 獣が勝った場合は、死んだ人間を餌にする状況ならば、満腹になった獣はもう人を襲わないだろう。

 だが血に酔って無差別に人間を襲う獣なら、山賊に偽装した領主軍を皆殺しにした後であっても、近付く人間を皆殺しにしてしまうだろう。

 リーダーはダイの話を聞いて、人間の集団を領主軍だと判断していたが、このまま街道を後戻りすることは出来ないと覚悟しており、獣と領主軍の争いに決着がついた時点で、強行突破する決断をしていた。

「若様、ダイ殿、決着が付いたら教えていただけますか」

「任せておいてください。なあ、ダイ」

「はい。安心するがいい、決着が付いたら教えてやろう」

 何もすることが無く、話すこともない状態が少し続いたが、十分程度待つだけで、獣と人間の争いが終わった。

「終わったようだね」

「そのようでございますね。どうやら獣が勝ったようでございますね」

「かなり強い個体のようだね。獣のくせに金級を超えているね、白金級くらいかな」

「はい。恐らく魔境に誘われる直前の獣だと思われます」

「まずいね、近づいて来るね、どうする」

「私奴が始末してきましょう」

「ダイが始末してくれるのなら、近くにまで来させて確認してみよう」

「分かりました」

 本来なら白金級の強さを持つ獣など存在しないはずなので、何かとんでもない事態が起こっているのか、ルイを狙う魔族がかかわっている可能性もあるので、ダイもルイの側を離れない方がよいと判断したのだ。

 そして近づいてきた獣を確認すると、普通では考えられないくらい強大な熊だった。

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