第10話女戦士2

「若様助かりました。大したお礼は出来ませんが、粗末なものですが食事を用意させて頂きますので、御腹一杯食べて下さい」

 ルイが老人と幼子を率いて襲撃現場にたどり着いた時には、すでに戦いは終わっていて、全滅した山賊の武器や防具に衣類まで剝ぎとっている最中だった。

 隊商のリーダーは四十前後の男だが、十代から三十年近く隊商で働いているらしく、なかなかの度胸と男気があるようで、山賊に襲われた現場に留まり、仲間の治療だけでなく山賊の遺品を集めると言う事までやってのける男だった。

 しかも全滅した山賊のお金はもちろん、武器・防具・衣類などの装備品は救助に来たダイのモノだと言って渡してくれた。

 しかし山賊の装備など百人分もいらないとルイが言うと、買い取ってお金に換えてくれるとまでいうのだから親切な事だった。

 だが単に親切と言うのではなく、圧倒的な魔法と戦闘力を見せたダイと、この後も一緒に行動し護衛代わりに使いたいと言う、したたかな計算もあった。

 ダイは、隊商のリーダーが考えていることなどお見通しだったが、老人と幼子を助けたいと言うルイの考えを成し遂げるには、隊商を利用すべきだと考えていたのだ。

「そうなんですよ若様。ご領主の無理難題をお断りして、何とか領都から逃げ出してきたんですが、何故だか訓練の行き届いた山賊に襲われてしまったのですよ」

 リーダーは、はっきりとは言わないが、襲ってきた山賊が領主軍だと匂わせるような言い方をして、ルイやダイにも気を付けるように警告してくれた。

 老人と幼子が住んでいた領地も惨かったが、この領地を治める領主も酷いようで、早々に王領地に移動すべきだと言うのが分かった。

「これ美味い。食べる」

 さきほど獅子奮迅の活躍を見せていた女戦士が、小麦粉を焼いて作ったナンに甘いジャムを塗り、満面の笑みを浮かべながら幼子たちに手渡していた。

 あれほどの戦闘力と闘志を持つ戦士であると同時に、子供に対するあふれるような愛情を持った、人間味豊から女性だったのだ。

「どうでしょう若様、我々と一緒に旅をしませんか? そうすればお年寄りや幼子を歩かせることなく、幌馬車に乗せることが出来ますので、早く目的地に着くことが出来ますよ」

「そうしてもらえれば助かるが、それでは商品を運ぶことも、隊商の者たちが馬車に乗ることもできないのではないか?」

「確かに隊商の者たちは、けが人以外は歩かなければいけなくなりますし、山賊どもから回収した品々は、ダイ様に預かっていただかねばなりませんが、若様たちと別れて進む危険に比べれば、何ほどの事もございません」

 隊商のリーダーは、真っ正直に話した。

 山賊に偽装した領主軍がまた襲ってきたら、四人の護衛を失った隊商には防ぐことなど出来ないと言い、一緒に行動して欲しいと言うのだ。

 そしてなにより、リーダーはダイが魔法袋を使えることを見抜いていた。

 最低でも鉄級の魔法が使える以上、かなりの収納量を誇る魔法袋が使えると判断し、山賊から回収した品々はダイが持ち運べると考えたのだ。

 もしかしたら、老人・幼子・負傷した隊商員を幌馬車に乗せ切れなかったら、かさばる商品をダイが預かってくれるとまで判断しているのかもしれない。

 そんな駆け引きを、隊商のリーダーとダイが行っている側で、女戦士は幼子たちに懐かれ抱き着かれていた。

 幼子たちの村では、奴隷として高値で売れる若い娘、母親たちから売られていったため、女は幼子か老女だけしか残っていなかった。

 そんな幼子たちにとって、甘いナンを分け与えてくれる女戦士は、母親を思い起こさせる存在であり、無条件に慕うことになった。

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