　熊は人間の二千百倍も鼻が利くので、隊商の位置が分かったのだ。

　ダイは自分が熊を倒すつもりでいた。

　だが女戦士が素早く動き、単独で熊に向かっていった。

　女戦士は幼子たちを護りたい一心で、圧倒的に強大な熊に挑んでいったのだ。

「どういたしましょう？」

「彼女がどれくらい戦えるか知りたいね」

「分かりました」

　ダイはルイの希望を受けいれて、女戦士と巨大熊の戦いを見守ることにした。

　巨大熊は四つ足で駆け、時速六十ｋｍで女戦士に向かって猛突進してきた。

　女戦士は慌てることも恐れることもなく、じっと巨大熊が猛突進してくるのを待ち受けている。

　巨大熊は時速六十ｋｍの勢いを生かして右前足を振り上げ、女戦士を叩き飛ばそうとした。

　だが女戦士は素早く足を動かし、歴戦の足捌きで巨大熊の右前足の攻撃をかわし、巨大熊の追撃が来ないように、巨大熊の振り下ろした右前足の方に移動し、ハルバートによる強力な一撃を巨大熊の頭にたたきつけた。

　しかし巨大熊も長年野生の世界で生き残った猛者だけあり、二本の後ろ脚を使って左横に飛び、女戦士が放った必殺の攻撃を避けたのだ。

　しかもただ避けただけではなく、一度飛んで逃げた勢いを強靭な後ろ足で吸収し、再度飛び跳ねて女戦士の方に戻り、今度は左前脚で女戦士を攻撃してきた。

　一度は巨大熊の攻撃を避けて反撃した女戦士ではあったが、二度目の攻撃を避けて反撃することはできず、かろうじて右肩のプレートアーマーで巨大熊の攻撃を受けつつ、自分から飛んで巨大熊の攻撃力を減殺するしかなかった。

　一瞬のうちに生死を分ける攻防が行われたが、そこで休息が入るほど余裕があるわけではなく、女戦士は素早く体勢を立て直し、足捌きを生かして巨大熊に近づくと、今度はパワーよりも早さを重視した攻撃を巨大熊の右肩に叩きつけた。

　今度の攻撃は速度を重視したので、何とか巨大熊の右肩に届いたものの、巨大熊は剛毛と強靭な皮に護られているうえに、厚さ三十センチメートル以上の皮下脂肪と言う緩衝材に護られているので、ほとんどダメージを与えることが出来なかった。

　攻撃をしたことで、女戦士には避けがたい隙が出来てしまい、一撃で頭部が粉砕されるほどの強力な右前足の攻撃を、右側頭部に受けてしまった。

　だが攻撃を受ける直前に、ルイとダイが魔法防御とダメージ軽減魔法をそれぞれかけていたので、致命傷になることはなかった。

　支援魔法を受けたことを悟った女戦士は、攻撃を受けて吹き飛ばされながらも素早く起き、再度巨大熊に立ち向かうべく突進していった。

　女戦士の突進を受けた巨大熊は、後ろ足で立ち上がり迎え撃とうとした。

　ルイとダイは女戦士に敬意を払い、直接巨大熊への攻撃はしなかったが、支援魔法をかけることは躊躇しなかった。

　防御魔法とダメージ軽減魔法の上に、ダメージ反射魔法をかけて、巨大熊の攻撃がそのまま巨大熊に反射するようにした。

　だが残念なことに、女戦士と連携訓練をしたことが無いので、反射強化魔法や攻撃力強化魔法をかけることができなかった。

　事前に訓練することなく、攻撃力や反射速度を上昇させる魔法をかけると、女戦士は自分の身体を意のままに操ることが出来なくなり、とんでもない隙を生んでしまうからだ。

　一センチメートル避けたつもりが二センチメートル避けていたりしたら、受けないはずの攻撃を受けてしまう事があるからだ。

　攻撃をするにも、勝手に反射速度を上げられていると、急所に当てるはずだった攻撃が、はるか手前の防御されているところを攻撃してしまう事もあるのだ。

　遂に女戦士と巨大熊の戦いは最後の時を迎えた。

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