第14話決着

 女戦士は攻撃が届く前の距離でハルバートを振り上げ、事もあろうに思いっきり投げつけた!

 一番攻撃力のある武器を手放すなど狂気の沙汰とも思えるのだが、残念ながらハルバードの形状は、巨大熊相手には向いていなかったのだ。

 半分魔物化している熊の毛と皮と皮下脂肪の防御力は、普通の鉄製武器ではなかなかダメージを与えられないのだ。

 しかも形状的に深く斬り込むと言うよりは、叩きつけると言う効果の方が強いのだ。

 確かに先端はスパイク状に尖ってはいるものの、心臓や内臓などの急所に届くほどの長さはなかったのだ。

 唯一頭部を直撃できれば一撃で倒せる可能性もあるのだが、巨大熊はかなり賢く、後ろ足で立つことで4m近い身長となり、女戦士では頭部を直撃できない高さに頭を持ってきたのだ。

必殺の思いを込めてハルバートを投げつけた女戦士だったが、次の一手として予備武器である長剣を抜き、勢いを緩めることなく巨大熊に突っ込んでいった。

そうなのだ!

打撃力はハルバートには及ばないものの、長剣ならば突くことで巨大熊の急所まで攻撃を届かせる可能性があったのだ。

最初に投げたハルバートが巨大熊の左胸に食い込んだ。

「グゥオゥー!」

これで巨大熊の左前脚の攻撃が防がれた。

次に女戦士が長剣を巨大熊の心臓に突き上げた。

女戦士が狙ったのか偶然なのか分からないが、剣を真直ぐ突くと肋骨に邪魔され内臓には届かない。

だが下から突き上げると、肋骨と肋骨の間に剣を差し込むことができるのだ。

しかしそれでも巨大熊の防御力は強く、一撃で心臓まで長剣を届かせることはできなかった。

「ギャァオォー」

巨大熊は右前足で女戦士を攻撃したが、紙一重の差で自分の長剣を蹴り後ろに飛び退いた。

「ガゥオゥー!」

 女戦士はそれで逃げることなく再度攻撃に転じ、勢いをつけて自分が巨大熊に刺した長剣を蹴り、遂に巨大熊の心臓に長剣を届かせた!

「ギャァオォー」

女戦士はようやく巨大熊を倒すことに成功した!

「「「「「うぉぉぉぉぉ」」」」」

 女戦士の快挙に、隊商のメンバーも老人も幼子も一斉に歓声を上げた。

「若様、熊は価値のある獣です。急いで解体いたしましょう」

「そうか、頼んだよ」

「はい」

 ダイの提案で素早く巨大熊の解体が始まった。

 普通の熊でも毛皮や胆のうは高く売れるのだが、今回の巨大熊なら途方もない高値で売れる。

 あらためて大きさをはかると、体重は千四百十五キログラムで、二本足で立つと身長は三メートル七十五センチメートルもの巨大な熊であった。

 ルイとダイの魔法袋に入れれば胆のうだけではなく肉も傷まないのだが、せっかくの大物なので直ぐに食べることにした。

 もともと獣臭い熊である上に、暴れに暴れて体温も上がっていたので、肉はかなり獣臭くなっていた。

 だがダイは料理人としての腕も素晴らしいので、手持ちの野草と新たに集めた野草を組み合わせて、見事に熊肉の獣臭さを取り除いた。

 領主の土地では、勝手に野草1本でも採れば厳罰に処せられるのだが、この領主とはすでに戦闘状態になっているので、もはや遠慮する必要もなかった。

 今日の分は熊肉のローストがメインディシュであったが、明日以降ももっと美味しく食べるために、熊肉と野草や根菜の煮込み、熊肉シチューを作り置きしていた。

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