◇最終話:リターンアンド日々ガール
春が来た。私たちは高校三年生になった。
あのあと、魔女たちが無限図書館に招集されることは二度となかった。有象無象のオカルトたちを無限図書館に引きずり込んでいたクレオパトラが消滅したので当然だ。今の無限図書館は、魔女もオカルトもいないただの空っぽの領域になっている。
あと、クレオパトラによる天変地異の被害は、思った以上に少なかった。クレオパトラの呪いが現実世界に染み出したように、無数の魔女デバイスの共鳴波動も現実世界を修復してくれていた。
もちろん物的被害も人的被害もゼロではなくて、一般的な地震程度には死傷者もいたらしいけど、こればかりは天災として受け入れるしかない。そういうものだと割り切るしかない。そうやってきれいな言葉でごまかして、いろんなことを曖昧にして、みんな日常に戻ろうとしている。
そしてクレオパトラが消えたことで、地磁気も正常化した。それでもたまに世界のどこかでオカルトが自然発生することはあるけど、発生率はかなり低いし大きな問題にはなっていない。
ちなみに自然発生するオカルトについては、各地の魔女が対処している。無限図書館でのオカルト狩りと違って人目を気にしなきゃいけないし、何より身代わりとなる魔女帽がなくて危険すぎるから、無限図書館にいた魔女のほとんどはもう引退しちゃったらしい。だけどまだ魔女を続けてる有志もいて、その人たちが世界をオカルトから守ってくれている。
そして私と里中は今、駅近くの図書館で並んで座って勉強している。毎週土曜にこの図書館に集まって、二人並んで勉強して、帰りにタピオカやクレープを奢りあう。それが今の私たちの日常だ。無限図書館に毎週行ってた頃よりは、ずっと健全になったと思う。
肝心の受験勉強についてだけど、クレオパトラ事件の直後、高校二年最後の模試で私はD判定をとった。まあ、三か月以上もオカルト狩りにハマっていたし当然だけど。そして里中に至っては半年以上不登校だったし、その前からもオカルト絡みを優先していたので、私以上に悲惨だった。
だけど里中はやっぱり地頭がいいし、しかもかなりの努力家だから、ここ数か月で一気にクラスに追いついた。この前の模試でも、第一志望でB判定を取ってたし。私はまだC判定なのに。
私たちは、隣の県の同じ大学を目指している。里中は機械工学系で、私はフィールドワーク重視の生物・地学系だ。キャンパス内でも建物が隣だし、教養科目の講義では講堂が一緒らしいし、もしかすると大学近くのアパートで二人でルームシェアするかもしれないので、まだしばらくは里中と過ごす日々が続きそうだ。二人ともちゃんと受かればだけど。
夕方になり、図書館を出て、タピオカ屋に寄り、家に帰ってまた勉強、そして寝る。日曜もお互いの家に行ったりして、勉強を教えあったり、私ばかりが教えられたり、そんな感じで過ぎていく。
平日もクラスのみんなとどうでもいい会話をして、里中もやっと会話の輪にまた入れるようになってきて、受験のストレスでピリピリしたりモヤモヤしたりしまくって、塾の帰りにカラオケで息抜きしたりして、市役所職員一年目になった刈谷さんともたまにカフェに行ったりして、また土曜日がやってくる。
そんな日々が続いている。
ちなみにだけど、刈谷さんは魔女を辞めた。使い慣れた魔女デバイスも壊れたしちょうどいい機会だ、なんて笑っていた。そして私と里中の魔女デバイスは、机の中にしまってある。本来はオカルト狩りをしないなら魔女機関に返さないといけないんだけど、私たちは特例で許してもらっている。
というか、私と里中のオカルト狩りは一時休止中という扱いだ。
魔女を続けるかどうかは、無事に受験が終わってから考えることにした。大学生になっても一、二年のうちはけっこう暇らしいので、里中と一緒に魔女ワープをしまくりながら、オカルト狩り兼海外旅行を楽しんでみてもいいかもしれない。
でも、そんな風に気ままに世界を飛び回れるくらい、魔女デバイスはすごい力だ。こんな力を個人で勝手に使いまくっていいものなのか、私にはよくわからない。だから、全部保留だ。考える時間はこれから先いくらでもあるし、今は受験でそれどころじゃないし、まあ要するに、なるようになれ。
まあ、里中は大学の研究室の設備でなんとか一から魔女デバイスを作りあげて、世界中にこの力を広められないかと考えているみたいだけど。
この前も、「私たちだけがすごい力を持ってるから、使っていいのか迷っちゃうわけで。だったらいっそ、この魔女デバイスの力が、科学として世界の標準になればいいと思ってるの!」とか言っていた。私としてはやめた方がいいと思うけど、里中が楽しそうなのでまあいいや。
そんなこんなで、私たちは今日も必死に普通の日々を生きている。
私たちの受験は、未来は、これからだ。
オカルトウィッチ魔女ビーム 朝乃日和 @asanono
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