複雑な悲しい過去を持つ美少年・テディは、イギリスの寮制学校へ編入し、自分とは真逆の性質を持つルームメイト・ルカと出会う。
最初はぎこちない二人だったが、音楽の趣味で意気投合し、やがて互いを唯一無二の存在と感じるようになる。
しかし、テディの背負う過去の影が、二人の平穏な学校生活を徐々に脅かしていく。
やがてルカは、自分にとっては不可解なテディの行動を知り、愛情との狭間で苦しみ、長い葛藤の時期を迎えることになる――。
こちらの作品は同性愛を扱ったもので、犯罪性のある性的描写も頻出します。しかし、作品の本質は人間ドラマであり、著者の烏丸千弦さんが意図するのは、「本当の愛や理解とは何か。環境や出会いにより人はどう変わり、あるいは変わらないのか」といった、人生哲学そのものを描き出すことであるように感じられます。
とはいえ、その筆致はあくまで鮮やか、かつ軽く滑らかで、読者を知らぬ間に英国学生の寮生活へと導き、物語に没入させてくれます。
登場人物たちは最初から血肉を持つ人間として読者の前に現れ、陰影のある表情を見せ、語らずとも積み上げてきた過去や人生があることを、しっかりと感じさせてくれます。
臨場感のある生き生きとした音楽談義や、芸術性を感じさせる絵画調のしっとりとした情景描写など、場面ごとに手を尽くされた細やかな文章表現も、それだけで一読の価値ありと感じさせてくれるものです。
長い物語であり、途中には読むのが辛くなるような場面も存在します。主人公たちの陥る葛藤の繰り返しに、息苦しさを覚えることもあるでしょう。
それでも全てを乗り越えた読者は、主人公二人と共に物語の最終地点へ降り立つ時、そこに見える風景が、奏でられる音楽が、ありふれた日常会話が、とても特別で愛おしいものだと気付かされることになります。
この感動は、読んだ人にしかわかりません。
読み始めれば、あとは作品が物語の果てまで連れて行ってくれます。
ぜひお気軽に、つまみ食い感覚で、大作だからと気後れせずに、覗いてみてください!!
舞台は英国の全寮制学校。おぼっちゃま育ちの快活なルカと、どこか影のある美少年テディが出会い、いつしか二人は惹かれ合う。でもそれは、波乱の人生の始まりでもあった ───
とても美しい物語です。映像がありありと浮かんでくる風景や街並みの描写、丁寧に描かれる人物の心情、学友たちとの交流の臨場感、懐かしさを感じるたくさんの音楽たち、美味しそうなスイーツの数々。
そして何より、登場人物が美少年。
しかし……蠱惑的とも言えるその美しさ故なのか、テディは暗い過去を背負っています。いや、過去だけでなく現在進行形でも……酷く傷つけられ、壊され続ける彼の纏う退廃的な雰囲気が、さらに彼を妖しく美しく見せているのかもしれません。
周囲の人たちもそんなテディに翻弄され、特にルカは苛立ち悩みます。
読むのが辛くなるような場面も多々ありますが、それでも読み進めてしまうのは作者さまの力量でしょう。
私も登場人物に殺意を覚えたり叱りつけたい衝動に駆られて時に枕を殴りつつ、結局はルカとテディの幸せを祈りながら涙とともに読み終えました。
この物語が一貫して音楽に彩られていることも心憎い演出です。特にラストでそれが効いてくる……おっと、これ以上は言えません。
ただひたすらに愛を貫こうと模索する少年たちの、痛々しいまでの生き様が胸を打つ物語。さぁ、続編を読みに行かなくちゃ。
人間の暗い所にも焦点が当てられ、エロスの描写もそれ自身が目的ではなく物語の構成上のスパイスに加えられている程度。
そして、メインの二人だけではなく他の人達も細かいところまで作り込まれているのでしょう、血の通った人間にしか見えませんでした。
久々に、読みながら映像と音声、声が脳内で流れるほどの素晴らしい作品に出会えました。
最後に。
もし、テディがルカと出会わなければルカは普通の幸せを得られたのか、しかしルカがテディに合わなければ幸せなんて得られなかったのではないか。
そんな風にifの世界線を考えてしまうほどに私はこの作品にのめり込んでしまいました。
この作品に出会えた事に感謝を。
イギリスの寄宿学校を舞台にした現代劇ですが、端正な筆致でどこかクラシックな雰囲気も漂うラブストーリーです。
家庭に恵まれまっすぐに育ったルカと、それとは正反対の環境で生きてきたテディ。二人は恋に落ちますが、その進む先は前途多難であり……。
片方が守る・支える。もう片方は守られる・支えられる。
この関係性は夫婦や恋人同士、友人関係にも往々にして当てはまるものだと思います。
ただ、守られる・支えられる者が自棄的で依存心の強い人間であるとき、支える側の人間がどこまで寄り添えるのでしょうか。
この物語のテディは深い傷を負っています。彼の背負ったものはこの歳にはあまりにも重すぎ、一人で抱えきれるものではありません。しかしそれを簡単に引き受けるには、ルカという同い年の恋人は幼すぎ、無知すぎる。振子が激しく揺れるようなテディの精神はルカを苦しめます。それを承知しても果たして一緒に生きて行こうと思えるか。
イギリスの文化、音楽など、筆者の知識が盛りだくさんに詰めこまれたディテールは、その方面に詳しい方ならきっと大喜びでしょう。長編ですが整頓された読みやすい文章で次の展開に進みたくなります。BLというタグにあまりとらわれず、人間ドラマとして読んで頂きたいです。
冒頭からまず心惹かれるのは美少年ふたり。儚げで、どこかバランスがとれずに危なっかしい可憐な転校生と、思春期らしい我の強さを持ちつつも、なんだかんだで面倒見のいいハンサム系美少年。
思春期の激情を思いきりぶつけて恋に揺れるふたりの、懊悩と喜びと成長をたっぷり綴った物語です。
丹念に、細部まで調べられた寮制学校の描写に、禁断の世界を覗くような密やかな愉しみを覚えてしまいます。
背景に流れるのはブリティッシュロック黄金時代の名曲の数々。スイーツ、煙草、音楽室、サマーキャンプ、高級車。
確かな筆力に裏づけられた、端整な文章が、物語を美しく彩ります。
英国の寮で花開いた美少年の恋――ときに切なく、ときに背徳的で、永遠を求めているのに刹那的で破滅的な恋――を覗いてみませんか。