世の中は不条理に満ちている。当たり前のようで、受け入れ難い真実。

一つのあらすじを元に、様々な作者様がご自身の個性を織り込んで物語を紡ぐ自主企画。
そんな興味深い企画のために書かれた作品の一つが本作となります。

始めに、今から書く感想はあくまで一読者に過ぎない私の解釈を元に感じたり考えたりしたものです。
このように前置きせねばならないほど、読者に様々な解釈と感想を抱かせる、不思議な魅力のある作品だと思います。



『この世界は不条理に満ちている』

このフレーズは、作中に複数回登場します。
“大事なことなので(以下略)” という認識に添うならば、この「不条理さ」が本作そのものなのではないかと思うのです。

心に傷を抱え、鬱屈した思いを胸に秘めて祖父母の実家を訪れた高校生の海斗。
偶然出会った、太陽のように煌めく年上の女性、陽子。
彼女に泳ぎを教わることで心にかかる靄が徐々に晴れていく海斗は、当然のように陽子に魅かれていきます。

ですが、登場人物の二人、そして物語の行方を見守る読者の前に大きく立ちはだかるのが「不条理」です。

「こうであってほしい」「こうであるべきだ」と望むことが、如何に一方的な思いに過ぎないのか。
世の中はそんな一方的な思いなんてまるで存在しないかのように動いていて、海斗も陽子も、そして読者の私たちも、その一方的な思いにそぐわないことを「不条理」だと感じてしまう。

その不条理に抗うのか、あるがままを受け入れるのか。
本作では、海斗と陽子だけでなく、読者にもその選択を突きつけているように思えるのです。

あなたの選択は、この物語を読み終えた後に考えてみてください。

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