最初にお断りですが、企画作品の中でもまだ全ての作品を拝読できたわけではありません。
そして以下の感想は、個人の感想の域を出るものではなく「君はそう思ったんだね。よかったね」で流される程度のものでしかありません。
そういう前提の上で感想を書かせて頂ければと思います。
今回拝読させて頂いた企画作品の中で、個人的な”惹かれるか否か”の分水嶺があるとすれば、
それは「この作品はお題ありきじゃないな」と思えるところがあるかどうか、という点でした。
と言うのが、企画で提示されたお題プロットは、率直に言えば素材そのままだと「そうはならんやろ」としか思えない筋書きな気がしたからです。
「そうはならんやろ」じゃなくて「じゃあどうするか?」がこの企画になるわけですが、
「そうはならんやろ」に対する「なっとるやろがい」を地に足ついた表現できちんと描かれている作品に、わたしは「はぇ~……すっごいいい」と感じました。
わたし自身も「この筋書き、少なくとも自分の納得がいくように書くならどうなるか?」というモチベーションが湧いたことが企画参加のきっかけでした。
――以上はただの自分語りですが、
そういう目で本作の第1話の書き出しを見た時、もしかしてこの作者(紺藤 香純様)もそんな意識があるのじゃないかな、と直感的に感じられたのです。
個人的に文章やキャラクターの描き方について、数々の企画作品の中でもとても共感できた作品でした。
無口で無感情を装っているけれども、環境に振り回され、どこにいってもアウトサイダーだと自認しつつ本心ではそう徹しきれていない主人公の本当の心情は、
(近況ノート拝読しましたがこだわりがおありらしい)”食”に関するリアクションで「ああ、純な子なんだな」というのがとてもダイレクトに伝わってきました。
ピンポイントですが、”「うまい……っ」”の場面と表現はすごくよかったと思います。その直前までスーッと順調に読んでましたが、そこでぴたっと一瞬眼が止まったぐらいぐっときました。
さらに、都会の教室という空間の力学、そして田舎という空間の力学に嫌気がさして、憧れの人と海へ向かい解放感を味わいたいという展開も感情移入できるものでした。
※以下、作品後半の内容・ネタバレ含みます※
一方で、陽子も含めた主人公以外の登場人物の言動については行動原理や背景が掴みづらくて、
例えば海斗を劇場型裁判で糾弾したクラスメート、相手ある身なのに男と2人で抜け出して若干下心ありそうな陽子、寝取りでもしたならともかく海でちょっと仲良くなっただけで大騒ぎする田舎の人たち、いい理解者なのだけど調子のいい父(こんないい父さんがずっと傍にいたなら塞ぎこんだりするのかなぁという疑問……)等々、
個別単位で見ればそれらの人物や付随する設定は具体的でリアリティがあるのですが、作品としてのテーマやメッセージには必ずしも収斂されない情報(もしくは、話の展開に対してちょっとご都合主義的または少し強引な動き・扱われ方をしているように思われるところ)があるようにも感じられたので、
主人公の心情と同様にサブキャラ達の行動原理もひとりの人間として地に足ついたものとなっていれば、さらにさらに素晴らしい作品になったのではと感じます。
※後半の内容・ネタバレ含む部分 おわり※
取り留めのないことを長々と書きましたが、ともあれ、わたしは本作の主人公の描かれ方に共感を抱きました。
辛く苦々しい部分も含めてのひと夏の青春ストーリーだと思います。素敵な作品をありがとうございました。
一つのあらすじを元に、様々な作者様がご自身の個性を織り込んで物語を紡ぐ自主企画。
そんな興味深い企画のために書かれた作品の一つが本作となります。
始めに、今から書く感想はあくまで一読者に過ぎない私の解釈を元に感じたり考えたりしたものです。
このように前置きせねばならないほど、読者に様々な解釈と感想を抱かせる、不思議な魅力のある作品だと思います。
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『この世界は不条理に満ちている』
このフレーズは、作中に複数回登場します。
“大事なことなので(以下略)” という認識に添うならば、この「不条理さ」が本作そのものなのではないかと思うのです。
心に傷を抱え、鬱屈した思いを胸に秘めて祖父母の実家を訪れた高校生の海斗。
偶然出会った、太陽のように煌めく年上の女性、陽子。
彼女に泳ぎを教わることで心にかかる靄が徐々に晴れていく海斗は、当然のように陽子に魅かれていきます。
ですが、登場人物の二人、そして物語の行方を見守る読者の前に大きく立ちはだかるのが「不条理」です。
「こうであってほしい」「こうであるべきだ」と望むことが、如何に一方的な思いに過ぎないのか。
世の中はそんな一方的な思いなんてまるで存在しないかのように動いていて、海斗も陽子も、そして読者の私たちも、その一方的な思いにそぐわないことを「不条理」だと感じてしまう。
その不条理に抗うのか、あるがままを受け入れるのか。
本作では、海斗と陽子だけでなく、読者にもその選択を突きつけているように思えるのです。
あなたの選択は、この物語を読み終えた後に考えてみてください。