第30話.この世界。8

「ここが谷の入り口です。」

狭い岩山の間に見上げる石の階段。

横に水しぶきを挙げて流れ落ちる川。

此処まで来るは長かった。

赤大池の商隊と共に帰還して、小さな村を紹介して貰いながらの長旅だった。

成果は在った。

やはり村の名前が在るのは相手も話を聞く姿勢が違う。

「ほーぉ。確かに自然に出来た物では無いな。」

飛沫を挙げ斜面を落ちる水、下に溜まった水は池となり川として流れ出している。

驚き見上げる兄妹達に…。

「あー帰ってこれた。」

「まだ先は長いのよ…。」

「でも…。此処まで来れば危険は無いし…。」

「谷の出口は小鬼が多いから…。気を付けないと。」

安どの表情に笑顔が浮かぶ姉妹達。

「さあ、急いで谷に入りましょう。夜までに小鬼の多い所を抜けたい。」

父が初めて谷に入った晩に小鬼に襲撃され、捕まって小鬼達は不死王の存在を仄めかした。

父と母達は解放されたが。

直接、不死王の兵が来るまで存在を信じなかった…。

古代の滅んだ支配者の一つ。

当時、父はそう考えて居たそうだ。

古代の支配者の地下宮殿の話は白エルフや小人族が良く話すおとぎ話だ。

言い伝えでは未だ汎人の地に有るという。

地下深くに蠢き姿を現さない支配者達…。

階段を登り切ると頂上には模様が入った背の高い石柱が二本ある。

その間を進む。

右手は湖で小鬼の集落が近くにある。

避けるために山際を進む

草原に石の兵が整列している。

「これが黄金の不死の王の兵なのか?」

苔むす兵士たち。

数の多さに驚く義兄に答える。

「はい、黄金の不死の王の石の兵隊です、彼方の方に…。不死の王の城が…。」

指さす先に茂った樹木で見えない。

後、二夜を過ごさないと…。

辛うじて塔の先が見えた筈だ。


小鬼の集落を避け十分に距離を取りたかったが山に日が掛かり始めた。

野営の場所を決め準備をする。

姉妹同士が小枝を拾う。

「木は切っては駄目なのは良いが、枝はよいのではないのか?」

天幕を建てながら義理兄が尋ねる。

木杭にロープを掛け引っ張りながら答える。

「それは…どうでしょう?煙が酷くなります。」

「ああ、いや、すまん。今の話ではなく。木の勢いが悪くならない程度に枝を掃うのは良くある、実を大きくするのに枝を選ぶこともあると聞く。」

えーどうだろう?

「黄金の不死の王が父に言ったのは、切った木の本数の話なので…。」

そんな細かい事は不死王は気にしないと思う。

話しながらも作業は進む。

「そうか、義父にあったら聞いてみよう。茂みを作る為にワザと幹を切り枝葉を増やす…。そんな話を聞いた、汎人の領主が棘のある奇麗な花が咲く木で屋敷を囲い…。盗人を寄せ付けない為だそうだ。」

仕事を確認する義理兄。

今回は上手く張れたので問題はなさそうだ。

「不死王は、萌え…。栄える事に拘りがある様子なので、目を楽しませるのは問題無いと思います。」

風が強いと陣幕を張るのも苦労する。

無論、風の強い日には十分な仕事は出来なかった。

完璧に出来上がった陣幕を見て視線が義理兄と合う。

谷に風が吹く。

「おお、寒い、こんなに寒い所だとは思わなかった。」

マントの前を合わせる義理兄。

「谷の外は随分と温かいとは思っていました。」

「早く言ってくれ、之なら毛織の毛布を持ってこれば良かった。」

「毛織の…。では冬は耐えられません。獣毛の革でないと。」

「どうやって冬を過ごした。」

「村には草を編んだ家しか在りませんので。皆で肩を寄せ合い暖を取りました。」

野宿並みを覚悟してください。

「そうか…。厳しいな冬までに準備が必要だな。」

義理兄の顔は困難に立ち向かう表情だ。

「男手が増えるので父も喜びます。」

「ああ、頑張ろう。」

お互い視線を合わせる。

「あっ、できてるじゃなーい」

「ちょうどいいのが落ちてた」

向こうと我が家の妹達が大きな枝を引きずってきた。

「早速、枝を払いだな。」

皆が斧や足で枝を折り長さをそろえ始める。

「ちょっと多すぎたかな?」

薪になった小山の感想だ。

「細い小枝なんか直ぐに燃え尽きるわ。」

小弓とナイフを下げた狩猟組も戻ってきた。

「あーだめ、こっちは空振り。」

「かぼちゃが少し在った。」

「ウサギ用の押し罠を幾つか仕掛けたわ。」

残念がる女たち。

「明日は、水場の近くで夜を取ろう。鳥か魚が取れる。」

「「「はーい」」」

「早速、調理しましょう」

「ええ、良いわね…。このかぼちゃ未だ早くない?」

「うーん。それしかなかった。」

「木の枝探している時もかぼちゃの蔓と葉はあったけど実は成って無かった。」

「ちょっと固いけどいいでしょう。」

姦しく仕事を始める女衆。

苦笑する義理兄。

「妹達は悪くなさそうだ。」

「はい。」


姉妹と共に焚き木を囲んで久しぶの谷の夜風は冷たかった。

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西ヶ原くんのリッチな生活。 焼肉バンタム @arino_ryousi

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