第29話.この世界。7
地面にテントを広げ品を並べる。
並ぶ品数が少ないが…。
今回の旅の目的は村の名前を貰うことだ。
拾った丸太を削り。
面に”バリアン村工芸品”と炭で書いた看板杭を立てた。
両隣の店には挨拶をしたが、まだ兄妹で村の初めての市だと知ると大いに珍しがられた。
実際に来客は冷やかしが多い。
それでも良い。
今は顔を繋ぐことが大事だ。
村が大きくなって…。
せめて交易ができる位の数を用意しないと。
「やあ、噂話を聞きたいのだが良いかね?」
次の冷やかしは旅装姿の白エルフの男だった。
「せめて何か買ってください。」
思わず本音が出る。
「ああ、悪いね。では面白い話なら何か払おう。」
笑う白エルフ。
小弓と剣を腰から下げている。
「噂ですか?長老に話した事しか無いですよ?」
黄金の王の話は市で噂に成っているらしい。
「それで良い、僕は見た通り放浪の身だが実は歌と物語を集めている。」
「歌?」
「ああそうだ♪~」
背中にたすき掛けした物を前に回し。
腰にぶら下げた小弓を押し当てて不思議な音を出した。
驚いた。
矢筒だと思っていたが…。
あれが楽器か…。
「村を渡り辻で歌って夜空を天幕の放浪生活♪~だから物語が必要なのさ。」
露店で後ろに並ぶ姉妹たちの顔色が明るくなる。
「良いじゃない兄さん。」「せっかく村の名前も貰ったんだし。」
弾んだ声だ。
「え?ああ、じゃあ。」
一通り黄金の不死の王の偉業と谷の話をした。
「数万の石の兵と数千の巨大な石の蜘蛛を従え見上げる様な石の城を建て…。」
困惑顔の白エルフ。
「ええ、信じてくれないと思います。谷に行けば城が建っているうえ、石の兵はそこら辺に沢山在る物なので…。」
本当に谷の外では誰も信じてくれない。
「動いているものは?」
「偶に遠くで石の蜘蛛が移動しているのを見ますね。殆どは動かず苔と草に覆われています。」
「動いている物も在るのか…。支配者が?」
驚いた顔の白エルフ…。
「たぶん、王が命令しないと動かない物だと思います。父に警告に来た石の兵も会話した後、近くの丘の上に座って動かなくなりました。」
「それだと…。いや、まさか。」
そんなに不思議なことなのだろうか?
「たぶん黄金の王は今でも城の中に居ると思いますよ。不死ですから。」
「そうなのかもしれないな。」
納得しない顔の白エルフ。
こうなると自分の目で見ないと理解できないだろう。
「あー将来、来ていただければ…。実際に見れば本物と判りますよ。もう少し村が立派になったら歓迎します。」
「ああ、そうだな。」
曖昧な笑顔で答える白エルフ。
実際、答えは出ないので納得する。
「自分の目で見て来て下さい。その時は黄金の不死の王の法を守ってくださいね。」
話をした白エルフとは…。
薬草の見分け方と薬の作り方が彫られた木の板数枚で
彼ら白エルフに取っては重要な物では無いのかもしれないが。
谷に帰る僕等にとっては役に立つ。
帰りの旅で薬草の株を見つけて谷で育てよう。
野菜や木の実の種も集めている。
上手く育つか判らないが、失敗しても諦めてもう一回だ。
次に弟達が市に向かうときに頼めばよい。
客が途切れると…。
「ご無礼する、ココはバリアン村の店か?」
数名の旅装姿の背の高い…。
「はい、いらっしゃいませ、そのとおりです。」
菅笠から垂れた布で顔は判らない集団だ。
先頭が菅笠を脱いでダークエルフの大丈夫な若者が現れた。
「我が名はホロスト、ここ、東の赤池の村長ホーランの息子で6人目の兄妹だ。」
「はい、バリアン村のダヤンです。」
「先ずは商品を見せていただきたい。」
「はい、どうぞ、お手に取ってください。」
男は菅笠を背に屈み商品のナイフを手に取った。
「ふーん。」
しばらく色んな方向から観察して次に柄の付いていない金槌を手に取る。
「む、あまりよくないな。」
槌の面を指でさすり指摘される。
ああ、やっぱり言われた。
「すいません。それは僕が作ったものです。」
「そうか。では先ほどのナイフは御父上が作ったものか?」
「はい。僕は一通りは作れますがまだまだです。」
なんか僕はぼろぼろだ。
「まあ、兄弟探しだと言うからそんな物だろう。」
「精進します。」
「おにいさま?」
ホロスト殿の後ろの顔を布で隠した妹が訪ねた。
背が高い、僕より頭一つ分。
「ああ、良いだろう。」
「「「はい」」」
姉妹達が笠を取った。
「東の赤池の村長ホーランの息子ホロストと妹達だ。父の命で君達の村に行くことになった。」
「姉のホリンです。」
「ホホン、弓が得意。」
「ホスメです、手芸が得意です。」
「ホムンよ。まだ見習い。」
魅力的な笑顔の…。
美人姉妹。
「あ、はい、では…。」
少々、焦る。
妹達の旦那さんだ!
「兄弟に成るかは…。まあ長旅でお互いに決めよう。」
「はい!そうですね。」
実際、共同で狩りをしたり旅する事で夫婦に成るか兄妹で話し合って決める。
よし!兄として良い所を見せなくては。
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