第28話.この世界。6

赤大池から商隊が組まれ兄妹僕たちが加わる。

出発の日の出前、移動の準備が整った兄妹は頂いた湿地に生える草(スゲ)で編んだ笠を頭に被り。

旅装用の雨合羽小マントを装備している。

理由は身体を悪くし重労働に耐えられない家族の老夫妻が妹達と作ったものを交換した。

報酬は仕事の合間に作り方を教えて貰いながら仕立てた旅装具だ。

彼等は製鉄の労役から外れてしまったが、持っていた技と知識で細々と糊口を凌いでいた。

魚を取ったり、漁具を作ったり。

全ての兄妹子供達が旅立った後ならあんな生活も良いと思える老夫婦だった。

頭に被った広い笠の縁を持ち上げ周囲を見渡す。

多くの背子とヤギの列だ共に移動する。

「どうしたの?兄さん。」

西に進む列の向かう先。

東の赤池という。

大きな氏族の村で、今回の市の役だそうだ。

話では毎回持ち回りで市が開かれる。

長老達も集まる大きな市だ。


見えてきた池の周りには多くの建物とテント、家畜を囲む柵が見える。

村に付く。

沢山のダークエルフで大盛況だ。

「おい若いの付いて来い。」

赤大池の村長ムラオサの家の者に呼ばれる。

ついた先は大きな屋敷だ。

大赤池の村長ムラオサが挨拶しながら屋敷に入っていく。

「呼ばれるまでココで待ってろ順番だ。」

屋敷の者に言われた列に並ぶ。

列は長い、目立つので白エルフも居る。

小人族ドワーフも数人で固まっている。

順番が来て族長の集まる場に出される。

各村長と長老が向かい合わせで座っている。

奥に座るのが、ココ東の赤池の長老だと聞いた。

「だれだ?名乗れ。」

誰かが言った。

「バリアンの子ダヤンと申します。」

「ほお、バリアン誰だったかな?」

長老たちが話す。

「アンヤンの子…。か?名前からその系だ。」

「まあ、何れかの我が子弟だ。どこから来た。」

老人たちが納得するのを待って答える。

「黄金の不死の王の谷から来ました。父バリアンは、はぐれで迷い込んだ谷で黒砂の淵を見つけました。炉を立て家族を成したので村を作る為の兄弟を求めております。」

付したまま一呼吸して続ける。

「一族に加わる為、村の名を付けて貰いたく参上しました。」

やっと、僕の大命が果たせる。

多分、一生の大仕事の一つだ。

やった!!

「黄金の不死の王の…。」

一方、困惑する長老達。

「なんだ?」

「それは。」

お互い目を合わせて首を振る。

知らないらしい。

「不死?」

え?そっち。

ちょっと困る、父の話では歓待の言葉の後で長老達が村の名前を決めてくれる。

「黄金の不死の王は谷を支配する者で神から不毛の土地を与えられ。数万の石の兵を従え城と堰を築いて。雨を降らせて池を掘り、川を作って大地に森を育てたお方です。」

そう父に聞かされていた。

谷の常識だ。

「会った事は有るのか?」

「父が昔、使いの石の兵を通し話しました。”天を鳴らせて川を溢れさせるので。約束を守れ。”と…。川が溢れた後は黒砂が取れます。」

「約束?」

「はい、不死王が作った物を壊すな、木は貸すだけなので切ったら植えろ。糞便はまき散らすな。水を汚すな。ですね。」

谷の中の法なので仕方がない。

破る気はない。

「「「はあ?」」」

驚く長老達の顔。

お互い顔を見合わせ話し合う。

「何を考えているのだ…。」

「おい、若者。不死の王とはなんなのだ?」

「谷の支配者です。」

当たり前なので話す。

「支配者…。」

絶句する老人達。

支配者は僕達(兄妹)のような脆弱な存在じゃない、全く強靭で絶対的な力の持ち主だ。

想像も出来ない力を持っている。

ドラゴンすら殺すような。

ドラゴン殺しは初めの村で子供に嘘つき呼ばわりされたので言わない…。

「不死の王は人種を憎むのか?」

それは判らない、僕も聞きたいが不死の王は気にもしないだろう。

「さあ…。但し、言いつけを守らなかったのかオーガを殺すのを見ました。光の矢で一撃です。」

暗闇の中の光の矢。

そう言うしかない。

「オーガを一撃…。」

「光の矢。」

「雨を降らせるだと…。」

「はい、光の矢を天に放して雷を操り雨を降らせています。毎年、夏の前に見れます。」

「…。」

「…。」

困惑気味の族長達。

「ぜひ、我が家に来ていただける兄弟を探し父と共に村にしたいのです。」

「もう、不死王の谷の村でいいのでは?」

「谷は広く。池も多いです。谷の端までたどり着くのに10の寝床が必要です。」

「そうか…。幾つか村が出来そうだな。」

「その谷は、獲物が多いのか?」

「はい、獲物も多く、熊や狼も出ます。オーガは居ましたが不死王に殺されました…。後はゴブリン小鬼も居ますが…。」

ゴブリン小鬼…。」

母の話では小鬼は本来狂暴で、エルフや、汎人の子供を攫って食べると言われた。

「不死王からの約束なのか闘争に至っていません。」

「なんだと?」

「解りませんが、ゴブリン小鬼達は不死王の約束を守っている様子で。約束は何か解りませんが、ゴブリン小鬼が戦闘を避けています。」

「そんな馬鹿な…。」

「不死の王は神から与えられた…。とは?」

「はい、不死王が自ら言いました。不死王の偉業…。数万の石の兵と数千の巨大な石の蜘蛛を従え見上げる様な石の城を建てる姿を見せられます。完成まで何度も冬を越える。まるで自分が鳥に成ったような光景が頭に入ります。」

不死王の尖塔に触れると見える絵だ。

多分あの感覚は言葉にできない。

自分の時間が判らなくなる…。

一瞬だ。

「絶対的な支配者か…。」

放心した長老が呟く。

「なぜ黄金なのだ?」

別の長老の疑問が響く。

「不死王の姿が…。黄金の鎧を着ているので。」

「姿を見た事が無いのだろう?」

「不死王の作った柱に触れると頭の中に不死王が現れます。不死王の偉業が見れます。」

「なんだ…と。」

「はい。触れると不死王の偉業が見えます。黄金の鎧姿です。顔は解りません。ただ…。」

「なんだ?」

「わが城の財宝を奪う者は死を…。と言っています。」

「財宝!」

「財宝だと!!」

ざわつく長老達。

「はい、おそらく城の中で床を埋め尽くす金銀、宝石の山が見えます。」

「床を埋め尽くすだと…。」

「いや…。何故財が在ると見せる…。」

「不死王の城は広い水堀に城壁に囲まれ一周するのに4の寝床が必要です。その中に巨大な塔が聳え立っています。」

「巨大な塔…。」

「堀の縁に立つと見上げる様な塔です。いや、大きさから城かな?」

一人の長老が呟く。

「一回りするのに夜を明ける。汎人の王が作ると聞く城よりでかい事になる…。」

「ですので、不死王の城には近づきません。人が作ったとは思えない様な見上げる程の巨大な城です。」

「巨大な城…。」

「本当なのか?」

「わしが放浪のころ初めて見た汎人の王の城は大きくて驚いたが其処まで大きいとなると。」

「俄かに信じられん。」

騒がしい長老達に…。

「わが村に名を付けていただきたい。」

大事な事を押し込む。

「お主、もう一度名を聞く。」

「バリアンの子ダヤンです。」

「…。ではバリアンの村で良いだろう。」

「そうだな。」

やっぱりそうなったか。

「ありがとうございます、バリアン村の子ダヤンを名乗りこの市での店を出すことを求めます。」

「うむ、よかろう。」

「あと…。兄弟もよろしくお願いいたします。」

付け加える

「そうだったな、村を作る為の兄弟も求めておるのだな?心当たりを当たってみよう。」

付したまま礼をする。

「はっ、ありがとうございます。」

やった!長老の紹介なら心強い。

きっと良い兄弟に成れる。


若い兄妹が立ち去った後に…。

「支配者か…。」

「財宝は与太話だろう。」

「黒砂だが淵が見つかったのは本当だろう。」

「品は如何ほどの出来だろうか?」

「黒砂は当たり外れが大きすぎる。」

「質が悪くても数が出来れば。」

「後で目利きの者に店を覗かせよう。」

騒ぐ長老達に若者の声が響く。

「次の方がお見えです。」

「よし。入ってこい。」

奥の老人の掛け声で、この話は終わった。

多くの面会で皆が忘れてしまったが。

奥の袖の末席に座る若いダークエルフの大男が呟いた。

「黄金の王の財宝か…。ソレは面白そうだな。」

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