未来を生きてる俺たちは、相も変わらず悶々として

 「VRChat」という実在ゲームのプレイヤーがリアルとバーチャルを行き来する日常を悶々と過ごすという、今ある現実を描いている。

 作中で当たり前のようにさらりと書かれているが、登場人物たちはVRデバイスを用いて自由に行動できる最先端のメディアを使いこなす。
 現実は既にいつか思い描いた未来に追いつきつつあるのだが、当事者である主人公の煩悶はじつに生々しい。
 往年の個人HP小説を思わせる“いにしえのオタク文体”とでも呼ぶべき鬱屈した文体も、作中の雰囲気づくりに一役買っている。


 悶々と矛盾をはらんで日々をすごす主人公はヒロインと出会う。

 ヒロインはタイトルにある通り「美少女アバターを使っている男性ユーザー」である。
 昨今もてはやされる男の娘ではない。かといってボーイズラブとか同性愛とかそういうニュアンスのものでもない。


――本作のヒロインは、仮想空間における“目の前”に“存在する”者なのだ。
  主人公は、そういう存在に恋をした。


 そして、この感覚は「VRChat」において必ずしも特殊なものではない。
 いまこの瞬間も、あの仮想現実空間では本作と同じ体験を誰かがしている。
 
 誰かが誰かに恋をする。
 古今東西そこかしこに転がっている、当事者にとってだけ特別な話。

 だが――

 VRChatを知らない人にとっては、主人公たちが当たり前にしている感覚の奇妙さを垣間見ることで。
 VRChatをプレイしている人にとっては、思い切り突きつけられた“気持ち”への共感として。

 大きなインパクトを与える力を持った作品であると思う。
 

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