題名からして軽めのラノベ的な話と思ったが、驚く事なかれ。読んでみると、それは最も現実的で、残酷で、そして感情的な話だ。
映画監督を目指す男性は、厳しい現実から逃れようとVRChatの世界に入り込む。そこで出会ったのが、外見美少女で中身男な人物。
正直読むまでは美少女キャラとの青春物語と思っていた。しかし違う、そこにあるのはどこまで現実的。我々読者に突き付けるような現実が迫ってくる。
主人公自身何をするべきか、美少女キャラの想い、そして最終的に出す答えと、容赦なくそれらが描写されてくる。それが筆者にとっても刺さる物があって、スラスラ最後まで読んでしまった。
VRという夢の世界に確かに存在する一面。ぜひとも手に取って読んでほしいです。
「VRChat」という実在ゲームのプレイヤーがリアルとバーチャルを行き来する日常を悶々と過ごすという、今ある現実を描いている。
作中で当たり前のようにさらりと書かれているが、登場人物たちはVRデバイスを用いて自由に行動できる最先端のメディアを使いこなす。
現実は既にいつか思い描いた未来に追いつきつつあるのだが、当事者である主人公の煩悶はじつに生々しい。
往年の個人HP小説を思わせる“いにしえのオタク文体”とでも呼ぶべき鬱屈した文体も、作中の雰囲気づくりに一役買っている。
悶々と矛盾をはらんで日々をすごす主人公はヒロインと出会う。
ヒロインはタイトルにある通り「美少女アバターを使っている男性ユーザー」である。
昨今もてはやされる男の娘ではない。かといってボーイズラブとか同性愛とかそういうニュアンスのものでもない。
――本作のヒロインは、仮想空間における“目の前”に“存在する”者なのだ。
主人公は、そういう存在に恋をした。
そして、この感覚は「VRChat」において必ずしも特殊なものではない。
いまこの瞬間も、あの仮想現実空間では本作と同じ体験を誰かがしている。
誰かが誰かに恋をする。
古今東西そこかしこに転がっている、当事者にとってだけ特別な話。
だが――
VRChatを知らない人にとっては、主人公たちが当たり前にしている感覚の奇妙さを垣間見ることで。
VRChatをプレイしている人にとっては、思い切り突きつけられた“気持ち”への共感として。
大きなインパクトを与える力を持った作品であると思う。
知らない方のために紹介すると、VR chatとはヘルメット型のディスプレイをかぶってダイブするバーチャル世界で遊ぶゲームです。
このゲームの中ではハリウッドの巨匠スティーブン・スピルバーグが監督したSF映画『レディプレイヤーワン』のような世界が繰り広がっています。そこではプレイヤーは自分の好きな外見を選択して身に纏うことが出来るのです。
この物語の主人公は現実世界のストレスをVR chatで解消しているのですが、そこで中身が男の美少女に恋をしてしまいます。
ジェンダーとセックス、技術の進歩が可能にしたことに折り合いをつけられない旧来の価値観。それに生々しいリアルの側のジレンマが組み合わさって、主人公の気持ちは虫カゴの中に思いっきり叩きつけたピンポン玉のようにぐちゃぐちゃに跳ね回ります。
この物語は面白いです。
そしてSFのような話なのに、その物語の展開するゲームは実在する無料のゲームというわけです。
さあ、あなたもヘルメットを被って価値観の崩壊するVR chatの世界へようこそ!!
じゃないですね。
この小説を読みましょう!!!