君にすずらんの花束を

カワダ

第1話

雨が嫌いや、そう思った。

窓から外を見るとザーッとスコールのように流れ出すような雨、雨独特の草の匂い、少しだけ耳に残る音。

そのような雨が好きと言う感受性豊かな人もいれば、この雨が嫌いだと言う者もいる。


相楽 直人は後者だった。


教室から雨を見ると憂鬱な気分になる。

大学の講義が終わり皆がわらわらと教室を出るが相楽は動かずにいた。

動ける気分じゃなかった。

これから家に帰るまでが面倒だと思ってしまうくらいの雨に身体が動かなかったのだ。

重い腰をあげようにもなかなか動かない身体にため息をつきながら腰を上げる。


「なんで今日は雨が降るんやろか。お天気お姉さん今日めっちゃ晴れるって言うとったのに」



おかげで僕、傘持ってきてへん。そうぶつぶつ呟きながら大学の玄関口まで下がった。


「相楽どないしたん、苦しい顔しとるで!」


急に後ろから元気に声をかけられ、相楽はめんどくさそうに後ろを向くとニコニコと笑顔で立ってる親友、中本がいた。


相楽は「またこいつか」といつものように思いながらも歩きながら中本に話しかける。



「中本〜〜僕はな、傘を忘れたんや」

「それは死活問題やな!」

「せやろ?帰るだけなのに僕はびしょ濡れにならなきゃいかん」


中本と呼ばれた男は「でも俺も忘れたんや」と真顔になり一瞬シン、、、と静かになったような空気を感じると相楽と中本は急に吹き出し始め、次の瞬間にはこの頃の男子特有の謎の爆笑をしていた。


「おま、そないな真面目な顔していうなや」

「お前こそ俺の顔見て爆笑するなや」

「お前の真顔見て笑うなっちゅーほうがおかしいねん」


二人は雨だったことを忘れるくらい爆笑をし、なにがおもろいかわからんけどおもろいと言う謎の持論を出していた。


結論、二人の間では「雨が凄いけど、走って駅まで行ったらなんとかなる」というものになったので中本と相楽は走って駅まで向かった。


「いやあ、人間本気になれば案外行けるもんやな」


駅に着いた瞬間に雨でびしょびしょにでなりハンカチで一生懸命身体を拭きながら中本はつぶやいた。


「僕は二度とこんな無謀なことはせん。神に誓ってや」

「そないなさみしいこと言うなよ」

「電車の中の人、みんな僕らを見るやん。僕は恥ずかしくて死にそうや」


二人は来た電車に乗ると、電車に先に乗っていた人達からの視線を感じ、すみっこの方でひそひそと話をした。




「あ。相楽見てや」


中本が相楽を呼んだ。相楽は「なんやうるさいな」と言いながらいやいや返事をする。


「見て、窓」


中本に言われた先の電車の窓から見えた景色は晴れていて建物と建物の間には大きな虹がかかっていた。


「綺麗やな」


思わず相楽の口から言葉がこぼれ落ちた。


虹はまるで何かを始まる予感を覚えさせるような凛としていて、目が離せなかった。


「なあ、相楽」

「なんや」

「なんか今日いいことあると思わへんか」


中本が笑いながら言う。いいこと。相楽の頭の中には、それが印象的に引っかかった。


「いいこと?」

「おん、なんか人生が変わるようなすごいいいこと!」


中本は少年のような眼をしていいことを語った。


それに相楽は笑いながら「阿呆、そんないいことあるわけないやろが」と中本」に言ったが、内心はまんざらでもなさそうに少し期待の気持ちを持って虹を見つめた。

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