3、誰の身にもありえる

 年配の医者は撮影されたX線写真を並べて見せた。

 ライトに当てられた写真が写しだされたのは、俺の頭蓋。

 リンゴを2つに割るように、脳の中が撮影された物だ。

 医者は俺の身に何が起きたのか、解説する。



「大変でしたな。あなたは神経嚢虫のうちゅう症におちいっていました」



「え? しんけい、の、のぅうちゅ……」



「寄生虫であるサナダムシが、胃や腸から脳に移動し悪さを働く、神経症です。火のよく通ってない生モノを食べると、寄生虫の卵が体内で孵化するわけです」



「寄生……虫?」



「腸などにとどまれば、そこまで病状が悪化することはありませんが、稀に血液の流れに乗り、脳に到達する事例があります」



 俺の脳に、虫?

 そんなこと言われても、自分の脳内に虫が巣食っていたなんて、すぐには理解できない。



 顔を曇らせた俺を見て、医者は丁寧に説明してくれた。



「視界が影で覆われたのは、おそらく視覚を司る神経に寄生虫が入り込み、以上をきたした"飛蚊症ひぶんしょう"の一つですね。虫がいるわけでもないのに、虫が見えてしまう幻覚ですが、視界が見えなくなる事例は珍しい」



「はぁ……」



 話半分でしか理解出来なかった。

 医者は話を進める。



「激しいノック音と耳鳴りも同じように、聴覚の神経異常からくる幻聴でしょう。今年、どこか海外へ行かれたりしましたか?」



 唐突な質問に心当たりがあった。



「家族で海外旅行に、メキシコへ行きました」



「海外で生モノを口にしましたか?」 



 そう言われ、思い当たる節が。



「肉料理を食べた時、自分の料理だけ生焼けだったときが。ミディアムレアだと思って食べてましたね」



「中まで火が通ってなかったのですね。日本と違い海外は、よく火が通っていないと、危険ですから」



 医者はさらに続ける。



「プラジカンテルという、駆逐薬が効いて虫を排除出来たので、もう大丈夫です。命に別状はありません。まぁ、強い副作用は出ますが……」



 ん? 最後なんて言ったか聞き取れなかった。



 医者は少年のようなイタズラ心のある人なのか、単にサイコパス的なレベルで空気が読めないのか、最後にこの寄生虫がどんな未来をもたらすか、過去の病例を記録した写真を、X線写真の横に貼り付ける。



「うわっ!?」俺はその写真を見て、思わず声を上げた。



 シワの寄り合っ待った脳ミソに、所々、黒い穴が空き、そこから白い糸が何本も湧いている。

 一見すると、ウジの湧いたカリフラワーに見えた。

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