4、何ソレ? 口裂け女?

 5人のオジサンの様子を確認する為、恐る恐る上を見上げると、中央のオジサンの両サイドいるオジサン達が、まるで吸い込まれるように、中心のオジサンへ寄って行き輝きを放つ。



 そして――――――――融合した。



 融合し1つとなったオジサンは、静かに着地すると、ニッ、と黄色い歯を見せて言う。



「長く生きてるとね。オジサン、影分身が出来るようになるんだよね」



 そうか、1人で多数、多数で1人というのは、そういうことだったのか。


 じゃなくて、"長く生きてると"ってどういう理屈だよ?

 オジサンの歳になると、皆、出来るもんなのか?



 オジサンは話を続ける。



「でもね。分身すると楽しさも5等分だから、やっぱり君を襲うときは、1人の方がいいんだよね」



 背筋が凍る。

 


 こいつはとんでもねぇサイコ野郎だ。



 我にかえり俺は再び足を走らせた。

 絶対に捕まりたくない。


 

 オジサンは余裕をかます。



「またオジサンの鬼かな? じゃぁ、い〜ち。に〜い。さ〜ん……」



 俺は走りながらLINEを開き、部活のダチに震える指で、状況を説明して助けを求める。


               

                >助けて!


   お前、部活サボって、

   いきなり助けてとか

   ないだろ?


                >悪い

                でも、今ヤバイ奴に

                追われてんだ!


   どうした?


                >童貞だから宙に浮いて

                影分身するゲイのオジサンに

                追われてる!




 ダチの返信が途絶え、不安になったところで、メッセが返って来た。



   草!


                >ふざけんなよ!



   ふざけてんのはそっちだろ?

   何それ、口裂け女とかいう奴?



               >ちげーよ! ゲイのオジサンだよ!!


   草草草!


   サボりの言い訳にしては

   面白かったよ(笑)


   

                >だから、ちげーよ!



   明日は部活に来いよ〜

   じゃ!


       

                >おい!!!




 駄目だ、信じてもらえない。     

 いや、当然だ。

 逆の立場なら俺だって信じない。



 ともかく、安全な場所を見つけないと。

 こうなると自力では、どうにもならない。



 俺は、いつも通学途中で顔を見る、交番のお巡りさんに助けを求めることを、ひらめく。



 た、助けて下さい!


 

 と、ドラマの主人公ばりに、世界の中心で叫んでみたいもんだが、今はそんな綺麗な話ではない。



 交番に駆け込むと、奥から"裸の細マッチョの男"が出てきた。

 いつもと違う姿だと、すぐに気づかないもんで、その裸の細マッチョの男は、通学の時にいつも見ている、ここのお巡りさんだ。



 お巡りさんは全裸で地肌にネクタイを巻き、股間は警察の人がかぶる帽子で隠されていた。

 唖然と見つめる俺をよそに、お巡りさんは何やら顔を赤らめて興奮していた。



 その顔のそばには、あのオジサンが、お巡りさんの耳へ、吸血鬼のように吸い付いている。

 耳から離れると、お巡りさんは昇天したまま膝から崩れ落ちた。



 オジサンは不敵な笑みを浮かべた。



「ヒ、ヒ、フ〜。ヒ、ヒ、フ〜」


 

 それ笑い声じゃねぇだろ?


 俺は踵を返し交番から出るが、けつまずき転ぶ。

 起き上がろうとするも、恐怖で足が震えて立てない。

 そんな俺に、交番から出てきたオジサンは、ゆっくり忍び寄って来る。



「ゲイのオジサンね…………国家権力よりも強いんだよ」



 マジでこのオジサン。

 常識が通用しねぇ!

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