6、オ・ジサン 新種誕生

 俺はイヤイヤながらも、蠢く物へ目を向けた。

 自分は今、何を見ているんだ?



 後頭部から血が吹き出すオジサンは、ゾンビのように立ち上がり、上半身を八の字に振ったあとでピタッと、動きが止める。



 瞬間、オジサンは消えた。

 


 いや、正確にはオジサンの身体は跳ね上がり、俺の視界から消えた。

 宙を舞うオジサンは俺の側までジャンプすると、頭から地面に落下、ベキッ、と枝の折れるような音が響き、首をへし折った。



 なんだよ? 

 何が起きてんだよ?



 首を折ったにもかかわらず、オジサンは再び立ち上がる。

 真っ赤に染まる顔に生気はなく、目は点になっていた。

 と、急に激しく痙攣。



 骨が折れるようなベキベキという音が、オジサンの全身から聞こえた。

 オジサンの両目はマグマのように赤く輝き、狼のような雄叫びを上げた。


 刹那。

 トレンチコートが開かれ、オジサンの胸から、象牙のような骨が飛び出る。



 オジサンの吹き出す鮮血を浴び、恐怖は倍増。

 飛び出たあばら骨は、ひっくりかえった瀕死の虫のように、いびつに蠢く。


 あばらの中心に、膨らんでは萎む、赤い風船のような物が見えた。


 さすがに高校生の俺でも解る。

 あれは、"生の心臓"だ。



 オジサンの身体が反り返ると、心臓が破裂。

 傍から見てても、その苦しみが伝わる。

 電流を流され続けたように、全身を激しく痙攣させて、顔を左右へ振る。


 血の涙を流しながら吐血し、口から泡立った血が、沸騰した鍋のように吹き出た。

 唾液と共にアゴに滴る血。



 オジサンは仰向けに倒れて動かなくなった。

 

 そして、破裂した胸から白い色をした、デカイ芋虫のような物体が這い出て、地に産み落とされると、のたうち回り血を撒き散らす。



 デカイ芋虫の頭には、三角形に配置された三つの穴がある。

 その中央に突起が飛び出ていた。



 顔だ――――しかも、人の顔。



 オジサンの胸からぶち破り、鮮血の井戸から這い出る異形の生物。

 芋虫かと思いきや、胴体から二つの手が幕を引きながら開く。

 オジサンの胸からズルリと落ちた人型クリーチャーは、産まれたての子鹿のように、震えながら立ち上がる。





 そう、それは――――――――。




「やぁ――――――――ゲイのオジサンだよ!」



 やっぱりオジサンだった。

 陽気なこのオジサンは、抜け殻となったオジサンと、何が違うかというと、今のオジサンは白蛇のように全身真っ白だ。

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