2、コール・オブ・ゲイのオジサン

 どれくらい走ったのか。

 公園から大体500メートルくらい離れると、静まり返った夕暮れの住宅地へ来た。



 これでもサッカー部だ。

 足の速さには自信がある。

 ここまで来れば大丈夫だろう。



 と、思っていると。



「君は足が早いね。強靭な脚力。オジサンの大好物だよ」




 どこだ!?

 どこからともなく、さっきのヤバイ、オジサンの声がする。



「オジサンもね。足の速さなら負けないよ? 夜の実戦で鍛えているから、下半身だけは自信があるよ?」



 夜の実戦って何だよ?

 それと足の速さ関係あんのかよ? 

 下半身だけは自信あるって、含みある言い方すんじゃねえよ!



 超絶警戒態勢に入った俺は、あたりを灯台のように見回す。



 クソ、どこだ? どこにいんだよ?



 そんなオジサンは俺をあざ笑う。


「ハハハ。ここだよここ、そこじゃないよ。こ・こ・だ・よ」



 まさか、ありえない。

 オジサンの声は俺の頭上から聞こえてくる。



 俺は天を仰いだ。 



「ようやく気がついたね?」



 オジサンは宙に浮いていた。



「ゲイのオジサンね。この歳まで童貞だったから、魔法が普通に使えるんだよ」



 普通にって、なんだ? 

 普通とはなんだ?

 て言うか、空飛べたら足の速さ関係ねぇだろが!

 絶対追い付かれるだろ?



 ふと、ロングコートの下を除くと、黒黒とした、ある"モノ"が目に飛び込み、俺は慌てて顔を伏せた。



 冷や汗か止まらい。



 何で、何で……何でコートの下が"フルトゥイン"なんだよ!?

 俺は何で、真夏にオジサンのフルトゥインを、見なきゃなんねぇんだよ!?



「いや〜オジサンね。裸の下にトレンチコートって、昭和の露出狂みたいだし、今どきの変態っぽくないかなって、心配だったんだよ」



 そう言いながらオジサンは、ハニカんだ。



 何照れくさそうに言ってんだ?

 それ、なんの心配だよ?

 キモチわりいよ!



 俺はきびすを返し、また走る。



 オジサンの声が俺の背中を追いかける。



「鬼ごっこかい? いいよ。少しオジサンと遊ぼうか? ゲイのオジサンね。若いお尻を追いかけるのは、サッカーワールドカップのボールを目で追うより、好きだよ」



 クッソ!

 マジでキモチわりぃ!

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