にのい♡しちのホラー短編(^_-)-☆

にのい・しち

アレが見えないのか?

アレが見えないのか?(1)

 追い風に煽られるように、俺は足を走らせる

 どこへ向かうでもなく、脳から伝達される電気信号を、ショートする寸前まで流し続け、無理矢理走らせる。 

 息が切れ意識が、朦朧もうろうとして視野が狭まり、街の風景などろくに見えず、進行方向の障害物に気が付かなかった。



 俺はリーマンにぶつかり転げた。



 いつもなら、逆に因縁付けて転がしてるところだが、今の俺はまともな精神状態じゃない。

 キレ気味のリーマンに俺はしがみつき、助けを乞う。



「助けてくれ! 頼む、助けてくれよ。追われてんだよ!」



 俺が指で刺す方を、反射的にリーマンは見たが、明後日の方向ばかり見ている。

 俺はリーマンを揺さぶり強く訴える。



「嘘だろ? どこ見てんだよ? アレだよ! アレ!! ――――――――アレが見えないのか!?」




 四日前。



 ホール内に絶え間なく鳴り響くEDMのせいで、ここでハイになってる奴らはみんな、バカみたいに声を張って話す。

 青紫の照明が、いかがわしさを引き立てて、変な気になりそうだ。



 仕事終わりに新宿の雑居ビル下のクラブへ足を運ぶと、いつものように高校の時の後輩か挨拶した。



「パイセン、お疲れ様です!」



 立ちテーブルで手を振る後輩は、金髪に鼻ピアスで尖ったとこを見せてるが、高校の時は不良連中にパシられて、面白半分にサンドバックにされてるひ弱野郎だ。

 ボコられたところを気にかけてやったら、妙になつかれて、高校卒業してもよくつるむようになった。



「パイセン。これ見てくださいよ?」



 迷惑半分にスマホを見せられたのは、よくある恐怖動画。



「お前。またキモイ動画漁ってんのかよ?」



「だって面白くないっすか? 薬中の彼氏に殺された女の幽霊で、腹を刺されて、長いこと苦しんだ後、変色した血を吐きながら死んだらしいんすよ。黒いヘドみたいなヤツ」



「キモチわりぃ」



「アレ? パイセン。こういうの苦手っすか?」



 俺が頭を叩くと、後輩は苦笑いをして謝った。



 動画はワンルームの隅に、女の幽霊がたたずんでいる物だった。

 時間が経つにつれ、女の幽霊が徐々に画面に近づいて行き、画面の前まで来たところで砂嵐が入り、動画が途切れる。

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