「電撃文庫MAGAZINE」での読み切り原稿を特別掲載!
雑誌用短編と弟子
「シコっちー! 余が遊びに来たぞ!」
隕石でも落ちてきたかのような轟音がするや否や、誰かが居間へと殴り込んできた。それは、背丈の低い赤髪の少女であったが、人間ではない。少女の頭部からは一対の角が、臀部の方からは黒々とした尻尾が伸びているのだ。
少女の名は《カグヤ・アテーリア》。今は亡き前魔王の娘にして、現魔王である。その魔王の突然の訪問に対し、銀髪の青年が穏やかに答えた。
「おや、カグヤさんではありませんか。僕の名前は《シコルスキ・ジーライフ》、賢勇者と呼ばれているこの物語の主人公にして、ここは僕の家です。そしてこっちの瑠璃色の髪をした貧乳少女は弟子の《サヨナ》くん。一応本作のヒロインだそうですよ。で、残ったこのゴリラみたいな男は僕の幼馴染である《ユージン》くん。行商人らしいですが別に気にする必要のない設定です。今回は雑誌用短編ということで、我々三人が一巻で出番が少ない上にキャラクターもまるで立っていないカグヤさんにスポットを当てる話ですので、何か御用でしょうかね?」
「ここまで説明的なセリフだとむしろ許せる!!」
「仮にもプロの書いた文章とは思えねえな……」
登場人物紹介及び作品の空気感を分からせたところで、シコルスキはカグヤを椅子に招いた。今日は特に依頼もなく(本作は依頼人のお悩み解決系ライトノベルである)、ユージンを家に呼んで適当にお菓子をつまみながら雑談をしていたのだ。
「んむ! 用はない!」
カグヤは豊かな胸を張りながら答える。
「一段目で話畳むつもりかコイツ……?」
(※編注:雑誌掲載時はここまでが3段組の1段目でした)
「用がないなら帰ってください」
「黙れ下郎ども! 余が自ら来てやったのだ、こうべを垂れて涙を流し出迎えよ!」
「誰が垂れ乳ですか! 垂れるほどありません!!」
「こうべは乳房って意味じゃねえぜ?」
「サヨナくんはカグヤさんと仲が悪いので、カグヤさんがどういう発言をしようとその貧相な胸部に対して喧嘩を売られたと認識してしまうようですねえ」
「結果ありきで会話すんなよ……AIかこいつらは」
早速、サヨナとカグヤは睨み合っている。どうにも二人は馬が合わず、低レベルな争いを繰り返す傾向にある。
「まあ、この下々はどうでもよい。シコっちよ、一体どんなお話をしていたのだ? 余も混ぜよ!」
「利権とそれに絡む裏金の話ですよ。現エンタメ業界を支配しているKADOKAWAがどのタイミングで政界に打って出るのか、それの予見も同じく」
「先生の予想では、ライトノベルのメイン読者層が選挙権を得るであろう二年から三年後だそうです」
「してねえだろそんな話は!! 政治とエンタメ絡めんのは萎えるからやめろや!!」
「大丈夫ですよユージンくん。ラノベを政治利用に目論んでいるのは電撃文庫だけですので」
「面白ければなんでもあり(意味深)」
「そのスローガンにそこまで黒い意味は込めてねえから!!面白き事もなき世を面白くとか今日より明日は面白いとかそういうレベルのアレだから!!」
「意識の高そうなSNSのプロフ!?」
「フォローしたくない人のそれですねえ」
「…………」
早速怒られそうなネタで盛り上がる三人をよそに、カグヤは一切話についていけない。電撃文庫は本当に面白く質の良いライトノベルを毎月読者の皆様へお届けする、清く正しいハイパーシャイニングレーベルなので、政治的意図のようなものは一切存在しないことをここに明記しておくのとは別に、カグヤは非常につまらなさそうであった。
それに気付いたのか、シコルスキが声を掛ける。
「カグヤさん。どうしました?」
「! な、何だシコっちよ。余だって分かるぞ! 電撃文庫とかいうのは悪いやつ!!」
「その話題は先の地の文で終わったのに……」
「会話の流れも読めねえのか?」
「んむむ……。よ、余が楽しめるような話をせい!」
「えー。じゃあわたし部屋で寝てきていいですか」
「遊びたくねえヤツと仕方なく家で遊んだ時の最終手段を取るな!」
「……! なら余も一緒に寝る!」
「バカか? コイツ」
「チッ!」
「純粋さにサヨナくんの悪意が負けた形となりましたが、結果的にギャグ小説としても負けですねえ」
聡明な読者諸氏は気付かれたかもしれないが、カグヤは無知故に際どいネタへ反応出来ないのである。結果としてボケでもなくツッコミでもなく、取り敢えず喋っとく的なガヤ芸人系キャラと化していた。
だが魔王という存在を活かさないのは、ファンタジー小説としてはどうだろうか。シコルスキはしばし思案し、やがて口を開いた。
「そろそろティータイムにしましょうか」
「仕掛けねえの!?」
「この人が来る前から既にティータイム状態だったような気がするんですけど……」
「追加のクッキーがもうすぐ焼けるのでね。カグヤさんにも出来たてを食べて頂きましょうか」
「んむ。手厚くもてなすが良いぞ!」
確かにテーブル上の茶菓子はカグヤが手を付ける前にほとんど無くなっている。それにそう急いでも、カグヤのキャラは突然濃くならない。シコルスキは席を立ち、焼いているクッキーを取りに行った。
一方、残された三人は――
(気まずい……)
(アイツ居ねえと辛いな……)
(電撃文庫とやらは悪いやつではないのか……?)
――何だかんだでカグヤとの間を取り持っていたシコルスキが不在になったことにより、無言の空間が広がっている。友達の友達はマジ他人、という状況と言えるであろう。サヨナは冷めた紅茶を口に含み、ユージンは腕組みをして天井を眺めていた。
カグヤのみがズレたことを考えながら、空気を読むことなく声を出す。
「そう言えば変態よ。以前、そちは余に酷いことをしてくれたな?」
「あ? 何の話だよ」
「アレじゃないですか? モップで頭を叩いたの」
詳しくは好評発売中の本作一巻を読んで頂くとして、カグヤは犬歯を剥いてユージンへと威嚇している。余談だが、カグヤはユージンを変態、サヨナを下々と呼ぶのでご承知おき願いたい。
「余は魔王ぞ。やられっぱなしは許せぬ。今ここで、先の復讐を果たしてやろう!」
「じゃあわたしちょっと先生の手伝いに……」
しれっと離席しようとしたサヨナの肩を、ユージンがゴリラじみた握力で掴んだ。
「は、離してくださいよ! わたし関係ないし!」
「主人公とヒロインが短編で同時に席を外すな」
「そんなメタな理由で!? ゴリラとメスチンパンの二匹で仲良くやってればいいじゃないですか!!」
「うるせえな口を慎めやまな板のメス!!」
「まな板のメス!?」
「シコっちがおらぬ今こそまさに、そちを血祭りに上げる好機! 肉塊に変えてやる!」
「…………」
こっちと絡まねえなコイツ――サヨナとユージンは苛立ちの混じった表情で、いきり立つカグヤの方を見た。ため息をつきながら、ユージンがテーブルの上へ肘をつける。
「ここで暴れるとコルに迷惑が掛かるから、腕相撲で勝負しようぜ。俺が負けたら死んでやるから」
「もし余が負けたら?」
「コルが戻るまで大人しく座ってろ」
「優しさの塊みたいな罰……!!」
「んむ。愚かな条件よの。だがしかし、二言は許さぬぞ!その腕なんとかで勝負だ!」
「ああそっから説明する必要あるのな……」
「ホント使いづらいですねこの人」
ユージンが簡単に腕相撲のルールを説明する。カグヤは特にボケることもなく、素直に理解した。
一応、カグヤは魔族であり、人間とは比べ物にならない力を有している。普通に腕相撲をした場合、人間に勝ち目はないのだが――
「じゃあいきますよ。……はいスタート!」
「ふぎぎぎぎぎぎぎ!!」
「あー負けそう負けそう」
――ゴリラは人間じゃないからね、仕方ないね。
そう言いたくなる程に、ユージンは涼しい顔でカグヤの腕力を圧倒している。顔を真っ赤にして頑張っているカグヤだが、ユージンの腕はピクリとも動いていない。
「商人辞めて一度森に帰った方がいいのでは?」
「俺が森から現れた前提で言うな」
「むぎぎぎぎぎぎ!!」
カグヤは既にルールを無視して、両手を使って思いっきりユージンの腕を倒そうとしているが、それでもやはり動かない。むしろユージンは徐々に力を込めていき、カグヤの手の甲がギリギリテーブルにくっつく寸前で腕を止めた。
「むぎゃあああああ! 痛い痛い痛い!」
「あと一歩が足んねえわー」
「テーブルを使った関節技みたいになってますよ」
腕相撲のルール上、決着がつくまで終わることはない。カグヤの身体は腕から傾き、関節が悲鳴を上げている。涙目になった彼女をしばらくの間嬲り続けたユージンは、飽きたとばかりに思い切り力を込めた。ごん、とカグヤの手の甲がテーブルにつく。
「はい終了。じゃあそこで座っとけ」
「ううう……。何なのだこやつは……」
「人の形をしたゴリラです」
「お待たせしました。追加のクッキーですよ」
「何を出したんですか!?」
「見れば分かるでしょう。クッキーです。今回はちょっと趣向を凝らして、イラスト付きのですがね」
「いやこれイラスト付きのクッキーっていうか、もういらすとやそのものじゃねえか!!」
「出来たてホヤホヤなので、熱い内にどうぞ」
「どこをどう食べろって言うんですか!? っていうかよく見たらこのまな板ってわたしかこの野郎!! それに中古じゃないっつーの!!」
「この短編における俺への熱いゴリラ推しは何なんだよ!!言うほど本編で俺ゴリラ扱いされてなかっただろうが!!」
「これ余にあんまり似てない……」
「好評なようで何よりですねえ」
「十割クレームですけど!?」
フリーな素材で構成された、目に優しいクッキー達である。一部、電撃文庫に権利が帰属している素材もあるが、まあそれはご愛嬌だろう。
しかし、ユージンはどうやら怒っているのか、シコルスキに詰め寄って首根っこを掴んだ。
「何でこれ出したか言え!! 理由あんだろ!!」
「理由と言いますか、今回の短編は土屋と阿南が雑にスケジュールを組んだ結果、本作の挿絵担当であるかれい先生とスケジュールが合わず、描き下ろしの挿絵が無いので、苦肉の策で有象がイラスト付きクッキーで読者へ詫びを入れる形となりました」
「短編でもそいつらの名前が出るんですか!? 破れかぶれにも程がありませんかね!?」
「てか詫びれてねえわ!! こんな十流ギャグ小説なんざ価値のほとんどがかれい先生の挿絵だろ!!」
「最後にこの短編描き下ろし挿絵が出てくるのを期待した読者に対してどう言い訳するんですか!!」
「苦情は電撃文庫編集部へどうぞ、ですかね」
「後手に回る対応じゃねえか!!」
「先生は炎上願望とかおありで!?」
「よく分からぬから、余はもうこれを食べるぞ!」
ツッコミスキルが小指の爪程もないカグヤが、ある意味では空気を読んで自分にちょっとだけ似ているクッキーを口に含んだ。
これは完全に余談であるが、いらすとや様の公式サイト上の検索ボックスで『魔王』と入力したところ、シューベルトしか出てこなかったことを付け加えておく。欲しいのその魔王じゃないんですけどね。
むしゃむしゃとカグヤはクッキーを咀嚼し、途端に渋い表情を見せた。
「まずい! シコっちよ、まずいぞこれは!」
「おや? そんなはずはないのですがね。サヨナくんにユージンくん、お二人もそのまな板とゴリラを食べてみてくれませんか?」
「クッキーって言えや」
「ユージンさんが共食いになるじゃないですか」
「テメーもまな板仲間を食うから共食いだろ!!」
とはいえ、シコルスキの料理の腕前は二人も認めている。形状はアレなクッキーだが、バターの甘い香り漂うこれはそう不味そうには見えない。
サヨナとユージンは同時にクッキーを口にした。
「おお、同士討ちでブホぁ」
煽ったシコルスキをユージンがぶん殴った。
「んぐ……。普通に美味しいですけど」
「形はともかく、普通のクッキーだな」
「余のだけまずく作ったのか、シコっち!?」
「サヨナくん相手ならともかく、カグヤさん相手にそれをしても行数の無駄になりますからねえ。決してそのようなことはありませんよ」
「ならばどういうことなのだ!」
「最早わざとらしいぐらいにツッコミどころをスルー出来るのは、逆に羨ましいですよね」
「コイツ話聞いてんのかってたまに思うわ」
「ふうむ。魔族の味覚は好みの差はあれど、我々人間とそう大差はないはず。となると――カグヤさん。普段は何を食べているのですかね?」
曲がりなりにも自信作だったクッキーを不味いと言われたのがちょっとショックだったのか、シコルスキは真剣にその理由を探っている。
そして一つ思い当たったのか、カグヤの普段の食生活について訊ねた。カグヤは少しだけ考え、三人の方を見てぽつりと呟くように返事する。
「草」
「ああ!? 何がおかしいんですか!?」
「どっちも面倒臭えこと言いやがったな……」
「ネットスラングを知っているサヨナくんと、普通に答えたカグヤさん……実に対照的ですね。今回はカグヤさんメインの短編なので、単芝生やしたらキレ散らかしそうなサヨナくんはスルーしましょう」
「だって草って言ったんですよ!? ファンタジー小説なのに! そんな煽り方するとか最低です!!」
「その程度で煽られたと感じたなら、もう二度とお前ポケモン出来ねえぜ?」
「余は何も変なことは言っておらぬ!」
「お前がヤギならな」
「掘り下げておきましょうか。カグヤさん、普段草を食べているとは一体どういうことなのでしょう?」
魔王の食性は草食……というわけではない。人間と同じく、雑食である。そして別に、カグヤはベジタリアンというわけでもないだろう。
シコルスキの問いに対し、カグヤは目線をテーブルに落とし、小さい声で答えた。
「だって……余の城には食べ物なんてほとんどないから……。草ぐらいしかないから……」
「なるほど。だから日常的に草をモシャっている、というわけですか」
「何か買いに行けばいいだろ。魔族共のことは詳しくないが、経済の概念ぐらいは存在するって聞いたことあるぞ」
「……お金ない……」
「草w」
「煽り返すな」
カグヤを攻撃するチャンスと見たのか、サヨナがカウンター草を単芝添えで生やした。その意味はカグヤに伝わらないが、煽られたというのは分かるらしく、顔を真っ赤にして肩を震わせている。
「これでハッキリしましたね。つまり、カグヤさんは普段の食生活のレベルが低すぎて、舌がクッキーのような甘い菓子類を受け付けないようになっていたのです! 僕のクッキーに間違いはなかった!」
「最後のが言いたい為だけに掘り下げたよな?」
「料理面ではプライドありますよね先生って……」
「だ、だまれだまれ! 余はかつて父上からこう教わったのだ! 『魔王たるもの、好き嫌いせずに何でも食べないと大きくなれないぞ』とな!!」
「その教育的標語は別に雑草食わす為の方便じゃねえから!! 多分お前の親父も娘に雑草食わしたいが為に言ったつもりねえから!!」
「カグヤさんが草を食べるのは、つまり食育の賜物というわけですねえ」
「いやこの人の行為は食育に真っ向から喧嘩売ってませんかね……」
可食出来る草ならばともかく、名も知れぬ雑草を無作為に食べると、人間なら腹を下すだろう。しかしそこは流石魔王、適当に草を食べても身体は大丈夫らしい。
「しかし……ちゃんと栄養あるものを毎日食べているのに、草ばかり食べているカグヤさんより圧倒的断崖絶壁なサヨナくんは一体どういうことなのでしょうか」
「発育は遺伝的要因が大事なんだなって分かるわ」
「わ、わたしの母も姉も大きいんですけど!?」
「じゃあお前変異種じゃねえか」
「師としては弟子を変異種よりも希少種と言ってあげて欲しいところです」
「わたしはサヨナ原種だっつーの!! この草魔王を弄り倒すかと思いきや、何でわたしに矛先向けてくるんですかあなた方は!!」
ヒロインの定めであった。
一方カグヤはと言うと、やはり草しか食べていないことを気にしているのか、涙目で叫んだ。
「よ、余だってもっと他に色々と食べたいのだ! でも城の周囲には草しかないし、お金もないし、仕方ないであろう!! これ以上余への愚弄を重ねるのであれば、シコっちであろうと容赦はせんぞ!!」
「いえいえ、愚弄したつもりはありません。僕のクッキーがお口に合わなかったのは残念ですが、しかしカグヤさんの事情を知ってしまった以上、それを放置するほど我々は薄情ではないですよ」
「別にこのまま草食ってりゃいいじゃないですか」
「お前心の底からコイツのこと嫌いなんだな……」
「だが、どうするというのだ。言っておくが、金銭をそのまま渡すような、そんな下手な施しは受けんぞ。余にも矜持というものがある!」
草食魔王に矜持もへったくれもあるか、と言いたいサヨナだったが、これ以上の罵倒はヒロインとしての可愛さを損ねると感じたらしく、本能的に黙っておいた。
シコルスキはカグヤに対して優しく微笑む。カグヤの幼少期から懇意にしている間柄なので、彼女に対する優しさは本物なのだろう。シコルスキがパチンと指を鳴らすと、テーブル上に雑草の山が現れた。
「……先生。何ですかこれ」
「見たら分かるでしょう。草です」
「何でご丁寧に四人分あんだよ」
「カグヤさんが現状草しか食べられないのであれば、その味覚レベルを引き上げる他ありません。まずは彼女の普段の食生活を知るところから始めます」
「それと俺らが草食うことに関連性ねえだろ!!」
「雑誌用短編でわざわざ雑草食べるんですか!?」
皿は四人分あり、それぞれこんもりと雑草が乗っている。ブーイングの激しい二人をよそに、シコルスキはカグヤの方を指差した。つられて二人もそちらを見る。そこには――
「………………」
――死んだ魚類のような目で雑草を口に入れ続ける魔王という、何とも悲しい光景が広がっていた。
イラスト/かれい
「モシャってる!! 先生こいつ平然と草をモシャってますよ!! サラダ感覚ですよ!?」
「実は勇者か風来坊じゃねえのかコイツ……」
「牧場主の可能性もありますねえ。さて、では我々も食べてみましょう。もうあまりページもないので先に言っておきますが、先程のクッキーには毒が入っているので、この雑草達の中に混じっている薬草を食べないと、お二人はこの短編で生涯を終えます」
「捨て身!?」
「雑草食わしたいが為にそこまでやるか!?」
(まあ嘘なのですが、お二人はおバカさんなので多分こう言えば大丈夫でしょう)
「そ、そういえばちょっと寒気が……」
「俺も頭が痛くなってきたぞ……」
プラシーボ効果だけで不老不死までいけそうなバカ二人の反応を見て、シコルスキは一人勝ち誇ったように右腕を突き上げた。
――というわけで、遅れて三人も雑草を口にする。
「おぼろろろろっろろろろろ」
「青臭え!! もう口ン中に草原まみれやで!!」
「うーんこの味……何故か小学生時代を思い出すようです。誰しも幼少期に一度は雑草を口にしたことがある、ということでしょうかね」
三者三様の反応を見せる。当然のようにゲロを吐いたサヨナと、しょうもない食レポをするユージンと、読者への共感を求めるシコルスキ。
だが――最終的に結局三人全員吐いた。
「草おいしい」
「この点においては魔王ですよこの人……。多分ヤギとかヒツジとかその辺をモチーフにかれい先生がイラスト化してる気がします……」
「勝手に予測すんな……っつーか挿絵あるじゃねえか、編集共ちゃんと仕事してんのか?」
「もうたくさんですねえ……草だけに★」
「ちょっと殺すからこっち来いお前」
殺意の波動に目覚めつつあるユージンをスルーして、シコルスキは再び指を鳴らす。
今度は何だ、と思うや否や、テーブル上に一冊の本が現れた。
「今度はこれかよ!! 一巻でもやったダイマを恥ずかしげもなく再利用すんな!!」
「一人でオールスター戦やってるんですか!?」
「草の進化系は紙! そしてその紙が寄り集まったものは本となります! 僕の書庫に眠っている本をアトランダムに召喚した結果、偶然この本が召喚されたので、この『ぼくたちの青春は覇権を取れない。―昇陽高校アニメーション研究部・活動録ー』を食べましょう!」
「故意オブ故意だろうがこんなもん!!」
「深夜の通販番組並みに白々しいですよ!!」
「本……。シコっちよ、本とはうまいのか?」
「この本に関しては青春学園ライトミステリです」
「中身の話じゃねえよ」
「味の話するのも意味が分かりませんけど……」
「多分醤油味です」
「挿絵担当のうまくち醤油先生の話でもねえよ!!」
「味っていうか何か味をしめてませんか先生は!?」
ある高校のアニ研を舞台とした、アニメ視聴者側を題材とするライトミステリ系連作短編集をカグヤはぱくりと口にする。うまいと思う(自画自賛)。
「んむむ……。田中味よの!」
「なるほど。僕は馬越先輩味ですねえ」
「わたしは表紙の岩根さん味です」
「ヘッタクソなステマやめろや!!」
「だが、本とは存外うまいものなのだな! 確か、余の城にも書庫はある! 今日からは草じゃなくて本をたくさん食べるとしようぞ!」
「胡散臭い暗記法みたいですね……」
「行為はバカそのものだがな……」
「ですが、カグヤさんの味覚レベルを引き上げることには成功しました。この調子でレベルアップしていけば、やがてクッキーも食べられるでしょう!」
「そこまでしないとクッキーって食べれないものですかね……」
こうして、食生活が多少豊かになったカグヤは、ホクホク顔で去って行った。どんな本を食べようかと考えているその表情は、晴れやかであった。
――しかし彼女はまだ気付いていない。魔王城に眠る蔵書は、既に盗掘者達に根こそぎ奪われているということに……。
「っていうか――この短編でも結局言うほどキャラ立ってないですよ、あの魔王」
「草食ったぐらいだぞ……」
「大丈夫ですよ。本作の一巻が飛ぶように売れれば、嫌でも二巻が出る――そしてその二巻で改めてカグヤさんメインの話を書けばいいのですから!」
「不確定な未来へ丸投げ!?」
「絶望しかない希望的観測で〆んな!!」
《おしまい》
賢勇者シコルスキ・ジーライフの大いなる探求 有象利路/電撃文庫・電撃の新文芸 @dengekibunko
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