緊急特別短編:《オフ日と弟子》

「今日はお集まり頂きありがとうございます」

「お集まりって……」

「いつもの三人じゃねえか」

 シコルスキ、サヨナ、ユージンという本作お馴染みのボケツッコミ愚連隊が、今日も変わらず集まっている。

 それはそれでよくあることなのだが、何やらシコルスキが恭しく頭を下げたので、妙なものでも見るような顔を残った二人がした。

「また例の自虐パーティーでもする感じですか?」※すごい!と弟子等参照

「それもいいと思ったのですが――」

「良くねえわ!」

「――今日はお二人を労おうと思いましてね」

 ふふ、と微笑む賢勇者。こいつの口から労うという単語が……まあ出なくもない性格をしてはいるのだが、今出るとは思わなかったサヨナとユージンが、更に怪訝そうな表情になる。

「怪しい……」

「何企んでんだお前」

「そんな疑わなくとも良いではないですか。僕がお二人に酷いことをしたという事実がこれまでにありますかね?」

「普通にありますけど……?」

「めっちゃある 死ぬほどある」

「そんなクソ細かいことはさておき、理由なく労うと不気味がられるというのもまた事実――」

「さておくな!!」

「労う側の態度じゃないですよ!」

 あからさまに怪しいシコルスキではあるが、その手には金色に輝くバッジが二つ握られていた。金メッキ――ではなく、純金製のバッジのようである。売ればかなりの値段になりそうだ。

「――なので今回はツッコミ役のオフ日と称し、普段本作においてツッコミに忙しいサヨナくんとユージンくんを讃えつつ、お二人には中々伸ばせないであろうツッコミの羽根を伸ばしてもらおう、という趣旨でお集まり頂きました。これはお二人の活躍を証明する、僕手作りの『いつもツッコミありがとねバッジ』です。付けて差し上げましょう」

「は、はあ……。何か全然ピンとこない……」

「帰ったら即売るけどありがとよ」

 二人の服に、ピカピカの金バッジを取り付けるシコルスキ。

 趣旨はよく分からないものの、普段からツッコミをしているという自覚はあるらしく、サヨナもユージンも素直に受け入れていた。

 ツッコミの羽根、という意味不明ワードに対してツッコミを入れていない時点でツッコミ役としては失格かもしれないが、それはともかくとして、シコルスキがパチパチと拍手した。

「いつもありがとう! 本作が成立しているのは君達のお陰です!」

「いやあ、改めて言われると照れちゃいますね」

「もっと褒め称えてもいいんだぜ?」



「よって今日一日、まともなツッコミをしたらお二人には電撃が襲うのでそのつもりで……」



「…………は?」

 拍手を突然止めて、一転して深刻そうな表情でシコルスキが告げた。余命宣告並に真剣なトーンであった。

 一方、言われた二人はわけが分からない。完全に言葉を失っている。

 数秒後、何とかユージンが疑問を口にした。

「意味が分かんねえんだが……? 俺らを労うって話はどこ行ったんだ……?」

「羽根を伸ばせっていうのは……?」

「これはもう君達のサガと言う他ありませんが、どうあっても君達は通常会話にすらツッコミを入れて、さながらそれがボケツッコミ漫才みたいな流れにしてしまうでしょう? しかしながら、今日は君達にはツッコミを休んで欲しい、ツッコミをして欲しくない――そんな思いから、今つけたバッジより電撃が襲うようにしました。そうすれば嫌でもツッコミしたくなくなると思うので……」

「バカ犬の躾か何かですあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 ビリビリビリ……と、サヨナの全身に電流が流れた。反射的にビクッとユージンの身体が動く。

 もう『ゲーム』は始まっているのだ……!!

「駄目ですよサヨナくん。その『たとえツッコミ』はツッコミレベルが高いです」

「何だよそのツッコミレベルって……」

「補足説明となりますが、ツッコミレベルが低いツッコミ――いわゆる省エネなツッコミに関しては電撃が襲いません。あまり抑圧しても仕方がないのでね」

「そのツッコミレベルとやらは……誰が判断を……するんですか……?」

「僕です」

「出来レのはじまああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 今度はユージンがビリビリ状態になる。サヨナと違ってこっちは無駄に頑丈なので、目が痛くなるぐらいの閃光が迸っていた。常人なら余裕で死んでいるレベルの威力である。

「いけませんよユージンくん。『面白単語ツッコミ』もツッコミレベルが高いのですから」

「出来レって単語は言うほど高いか……!?」

「……あ、これはセーフなんですね」

「言うほど面白いか? となりました」

「改めて明言されると微妙にムカつくな……」

 ビシッと決まったようないい感じのツッコミをすると電流が流れ、特に何ともないツッコミをするとスルーされる。

 それはさながら、ツッコミ役としての面白さを測られているような状況……!

 どう転んでもサヨナとユージンは美味しくないという最悪の構図である……!!

 が、本作ヒロインであるサヨナは底意地が悪く、アレな性格をしているが故に、この状況における打開策を秒で閃いた……!!!


(じゃあもう今回はずっと喋らないでおこう)


 単純ながら明快なアンサーである!!

 若干ドヤ顔になった弟子に対し、無言で師は片手を挙げた――

「あああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

「意図的な無言を作り出した場合、ラノベのキャラとして失格という判定が行われ……やっぱり電撃が襲うのでそのつもりでお願いします」

「さ、先に言えそういうのは!!」

 サヨナと同じことを考えていたユージンが冷や汗を流している。

 二度目の電撃でダメージを受けたサヨナは、膝をつきながらぼそりと呟いた。

「…………拷問…………」

「……ん? 何か言いましたかね、サヨナくん?」

「肛門って言いました」

「ヒロインとしての矜持が電流で死んだのか!?」

 無言でサヨナはユージンの方を指差す。呼応するようにシコルスキが手を挙げた。

「ほあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 案の定ユージンを十万ボルトが襲う。やっぱ雷よりもこっちやで!

「これこそがユージンくんの強みですねえ。サヨナくんよりも育ちが悪い故に、彼女より汚い言葉を使いながらも鋭いツッコミが入れられるという。しかし今日だけはその強みが君を殺すのです……!!」

(何でこの人こんな楽しそうなんだろう)

 悪知恵がフル回転しているのか、サヨナが心中ツッコミに切り替えた。

 が、シコルスキがじっと自分の顔を見てきたので、思わず目を逸らす。この男なら心を読みかねない。

 一方、ぷすぷすと黒煙を立ち昇らせながら、ユージンは無言でサヨナの頭を引っ掴む。

「テメエ……!! 俺をハメやがったな……!?」

「い、いや、誤解ですってば! 決してユージンさんよりも速くボケ役に回れば、もう自分には被害が来ないであろうという計算なんかしてません!! 純粋(ピュア)なヒロインなので!!」

「拷問と肛門で他人を陥れるヤツは純粋悪って言うんだよ!!」

 サヨナがシコルスキに目配せした。またもシコルスキが手を挙げる。

「あああああああああああああああああクソぁぁああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

「魔人ブウを想起させるようなツッコミはNGです」

「そんな想起しますかね……?」

「もっと気楽に構えれば良いのですよ。ツッコミのことなんて忘れましょう!」

「…………そうするぜ…………」

(人権問題になりそう)

 そう思ったサヨナだったが、思った瞬間にやっぱりシコルスキがこちらを見てきた。

 次やったらわけもなく電撃が襲ってくるかもしれない。

 最早二人にツッコミをする気力など失われただろう。シコルスキは嬉しそうに手を叩いた。

「そうそう! 因みに『電撃が襲う』という言い回しですが、当然のことながら某電撃文庫が野蛮なレーベルであるという印象を植え付けたいが故に採択しました。本来は電流が流れる、みたいな言い方で構いませんからね」

「………………」

 サヨナは事前に自分の口を両手でしっかり押さえていた。

「強引に電撃文庫ディスへ持っていこうとっぉあおあああああああ!!」

 逆にユージンは反射的にツッコミを入れてしまい、ダメージを負う。

「若干ですけど……判定がユージンさんに厳しくないですか?」

「いえ、電撃文庫という単語を口にしたので、それによる強制的な罰です」

「Fワードなんですかぁあぁああぁぁあああああ!!!!!」

 ※Fワード=汚ェ言葉 みたいな感じのアレだぞ!

「電撃文庫は言うなればお経並みにありがたい効力を持つ単語なので、決してFワードではありません」

「じゃあ何で電気流されてるんですか我々は……」

「お経並みにありがたかったら全国のジジババが南無阿弥陀仏の代わりに電撃文庫って口走っておおおおあああああああああああああああああああああああ!!!! これまでよりキッツいああああああああああああああああああ!!!!!!」

「ちょっとクオリティ高めの捻ったツッコミをするからです」

「そこまで関係ないのにD文庫のことが死ぬほど嫌いになりそうですよ……」

「にしても君達は学びませんねえ。これでは僕が君達をいじめているみたいではありませんか」

「他人に電気を流すという行為は少なくとも愛由来の行為ではない……って言おうと思ったんですけど、わたし可愛いので何言いたいか忘れちゃいました☆ てへぺろ☆」

 電気を流される前にサヨナが取り繕った。

 が、ユージンがクイッと顎でサヨナを指す。シコルスキは無言で片手を挙げた。

「なんでぇああああああああああああああああああああ!!!!」

「ぶりっ子は四十を超えてからやるように」

「ざまあw」

「さッ……最低すぎる、こいつら……!!」

 ラノベのヒロインとして正しいであろう行動は、決して本作においては正しいとは言えない。

 それを分かっていなかったサヨナへの罰は遠慮なく下された。

お前はなあ、ヨゴレなんだよ! ブってんじゃねェぞ!

「うーむ。このままでは日を跨ぐ前に君達が丸焦げになってしまう。というわけで、本作におけるお二人の隠しステータスを特別にお見せしましょう。今回はカクヨ村の短編ですからね!」

「ステータス開示と村に関連性は……あるな」

「カクヨ村とD文庫に牙を剥き続けるスタイルは絶対に改めませんね……」

「何か言いましたか?」

「言ってねえよ? 空耳じゃん? 耳鼻科へGOじゃん?」

「ついでに脳外科も受診したらどうですかじゃん?」

「ふむ……世が世なら小馬鹿にでもされたと思うところです」

「いやバカにしてんだよ! こんなもん弥生人でもキレるわああぁぁあアァアああああオォ!!! 畜生がぁぁああああああああああ!!!」

(一番バカなのはユージンさんな気がする……)

 師弟関係という名の上下関係がある以上、サヨナはシコルスキに対して一線を引くことが容易い。が、ユージンとシコルスキは幼馴染の間柄であり、互いに対等かつ無遠慮である。

 従ってサヨナよりもハメられやすいのは圧倒的にユージンなのであった。

 それはともかく、シコルスキは物凄いドヤ顔で「ステータスオープン!」と叫ぶ。

「な、殴りてぇツラでオープンしやがるな……」

「僕の通知表を皆さん見てください! って言うようなものなのに……」

 ステータスオープンの合間を縫って、二人はしれっとツッコミを入れた。



【サヨナ】


《ボケ:ツッコミ比率》2:8


《備考》

原則としてはツッコミ役に徹します。ただし特定状況下ではボケます。

この場合の特定状況下とは、自分よりもツッコミが出来るキャラクターが居る場合です。

従ってユージンが場に存在する場合、自分はボケに回っても大丈夫と判断し、ボケることがあります。アーデルモーデルが居ても同様です。



「ステータスっていうかメモ書きみたいな……!?」

「見せていいモンじゃねえだろこれ」

「続きましてはユージンくんのスタープン!」

「略し方にセンスがねえな……」

「どこかの指導者みたい……」

 二人はしれっと(略)



【ユージン】


《ボケ:ツッコミ比率》1:9


《備考》

原則としてはツッコミ役に徹します。作中で最もツッコミ役を担う位置にあります。

サヨナとの違いは暴力性であり、彼女がフォロー出来ない過激なツッコミを駆使することが可能です。一方、笑いを取るにはツッコミを捻る必要があります。

一切ボケないわけではなく、アーデルモーデルが居ると弄り役に変わるのでボケ始めます。



「言いようのない恥ずかしさが込み上げてくるな……」

「これを公開するメリットが皆無じゃないですか」

「大体この手のラノベにおけるステータスって他人にマウント取るためのシステムだろうが」

「あるいは読んでる人を気持ち良くさせるためのものなのでは?」

 やいやい言い始める二人。これはツッコミではなく苦情に近いので、どうやら電流は流れないらしい。既に境界線は曖昧になりつつあった。

「僕はこんなにもステータスが大好きなのに、お二人は随分と手厳しいようで……」

「嘘つけ!」

「そんなに好きならRPGやってる時に一生メニュー画面っぁおぉおあああああああああああ!!!」

 油断したサヨナが電流の餌食になった。大前提として、シコルスキの発言は不真面目なものであり、いわゆるツッコミどころが多分に含まれている。

 なので別にステータス開示系ライトノベルに喧嘩を売っているわけではないぞ?

「……ようやく分かったぜ。てめえの嫌がらせを切り抜ける方法がよ」

「嫌がらせではありませんが」

「拷問ですもんね……」

「何か?」

「肛門!」

「なんでだよ!」

 電流の痛みよりもプライドを捨てる方がマシだと判断したのか、サヨナの発言には躊躇いが存在していなかった。

 一方でユージンは何かを閃いたらしく、不敵に笑っている。

「何でも来いよ、コル。今の俺は無敵だ」

「そんな言い方をされると、まるで僕が電流を流したがっているようではないですか。僕が愛するユージンくんとサヨナく……いやまあ彼女はさておき、そんなことをしたいわけがないでしょう!」

「意味分かんねえよ!」

「別に愛していらないですよ」

「なのでユージンくんは伸び伸びとしてくれるだけで……」

「どういうことだよ!」

「…………」

「…………」

 ようやくシコルスキとサヨナが、ユージンの狙いに気付いた。

 読者諸氏もそろそろご理解頂けたのではないだろうか?


 そう――ユージンのツッコミがクソつまらないということに……!!


「これは……なるほど。考えましたね、ユージンくん」

「考えたっていうか……それもうツッコミじゃなくてガヤぁぁああああ!! 痛い!!」

「レベルを上げるには努力と研鑽が必要だ。が、下げる分には何ら労力が必要ねえのさ」

「間違いありませんねえ。一応解説を挟んでおきましょうか」



【とりあえずツッコミ】

 いわゆる『なんでやねん』に属する反応系ツッコミの一つ。

 ただしこれ単体はあくまで繋ぎの効果しか持たない。が、そのことを知らずに多用すると、何とも薄っぺらくなってしまう。

 リアルで言うならとりあえずこれ言っとけば俺ツッコミ役だからw みたいな感じで、どうにもイキっている連中が多用する傾向にあるだろう……。大事なのはこれで繋いだ後の一撃なのだが、そのことに気付くイキリは少ない(断定)

 とはいえ便利なので、本作においては無意識的に多用した結果、「ツッコミが浅い」というクッソ腹立つ指摘を担当より返され、修正させられることがままある。



「俺はもう――今後これしかやらねえぜ?」

「今回に限っては構いませんが、ユージンくんのキャラクターがいわゆる自称ツッコミ役の凡百ラノベ主人公みたいに見えてしまいますねえ」

「なんでだよ! 見えねえよ!」

(目に見えてギャグ小説としてのクオリティが下がっていく……)

 だがユージンの試みは効果抜群であり、一切電流が流れる気配はない。

「やっぱラノベ主人公って神だわw」

 しかしボケ役として何かアレな方向に才能が伸びつつある――

「これでユージンくんは完全に安全圏へと脱しましたねえ」

「大切なモノと引き換えにですけどね……」

「うるせえよ!」

「もう喋らないでもらえます? ムカつくので」

「こう言っては本末転倒ですが、僕も少々彼が鼻についてきました」

 先程までの果敢に電流を浴びていたユージンと、このクソしょうもないツッコミ未満の何かを繰り返すクソは、似て非なる存在になってしまった。良くも悪くも、ツッコミという役割はユージンを形作っていた重要な要素だったのだろう。

 しかしここで悪知恵が働くサヨナの脳内に、とある秘策が浮かんだ。

「分かりましたよ先生……わたしも『向こう側』のステージへと行く方法が」

「意味分かんねえよ!」

「喋んな!!」

「口を慎みなさい、ユージンくん」

 量産型ラノベ主人公と化したユージンは、そういうのを敬遠しがちな二人より蛇蝎だかつの如く嫌われ始めていた。

 が、ユージンは特に悪びれず平然と語る。

「後はもう最近のラノベ主人公らしく、適当にチート使って無双してハーレム作ってスローライフ送るわ」

「それは最早最近のラノベ主人公ではなく特定村落の住民ですけどねえ」

「特定村落!?」

「いいだろたまには! カクヨ村もナロ村も文化的差異は大してねえんだからよ!!」

「文化的差異!?」

「共に村民の質は似たり寄ったりラジバンダリですからねえ」

「ラジバンダリ!?」

「…………」

「…………」

 ようやくシコルスキとユージンが、サヨナの狙いに気付いた。

 読者諸氏もそろそろご理解頂けたのではないだろうか?


 そう――サヨナのツッコミがクソつまらないということに……!!


「これは……なるほど、君も大概ですねサヨナくん」

「やっぱこいつ性格クソ悪いわぁあああぁあああッッ!! 油断したァァ!!!!」

「ふふん。レベルを上げるには努力と研鑽が必要ですけど……下げる分には何ら労力が必要ありませんから!」

「他人のお下がりの言葉をドヤ顔で語ることほど恥知らずなものもありませんが……一応ここで解説を挟んでおきましょうかね」



【反芻ツッコミ】

 いわゆる『ボケの特徴的なフレーズを繰り返す』、反応系ツッコミの一つ。オウム返しとも。

 ただしこれ単体はあくまで繋ぎの効果しか持たない。が、そのことを知らずに多用すると、何とも薄っぺらくなってしまう。

 っていうかこいつ何も考えてねえな? というのが浮き彫りになるだろう。

 リアルで言うならボケを引き立てる効果も強いので、その後に上手くボケと連携を取った会話が出来れば良いのだが、そういうのが出来るイキリは居ない(断定)

 とはいえ便利なので、本作においては最も多用される。サヨナの反応に顕著。が、やはり「ツッコミが浅い」というクッソ腹立つ指摘を担当より返され、修正させられる。

 でも逆ギレして「じゃあ何かいい感じの深いツッコミ考えろや」と言っても「それを考えるのは我々の仕事ではない」と、急に線引きされてしまうのである。

 どないせえっちゅうねん●すぞ(全ギレ)



「わたしはもう――牛になります」

「反芻だけに? ってやかましいわあぁぁあああぁああォォ!!!」

「君が牛を名乗るにはあまりにも頼りない部位が一つありますが」

「牛を名乗るにはあまりにも頼りない部位!?」

「いや分かんだろ!! 乳だよぉぉおあおあおあああ!! 俺もうコイツ嫌い!!!」

 不思議なことに、ツッコミのレベルを著しく下げた結果、サヨナもユージンもボケの路線に乗り始めてしまった。これは果たしてどういうことなのだろうか。

 シコルスキがうーむと頷きながら、この現象を分析していた。

「どうやら……出来が悪すぎると逆に笑えてしまうのでしょうねえ。テストで友達が53点を取ったら「おお……」という微妙な反応しか出来ませんが、19点なら「イクゥゥゥ!!」とネタに出来るのと同じ理屈だと思われます」

「意味分かんねえよ!」

「ネタに出来るのと同じ理屈!?」

「…………」

 完全にツッコミ役、ひいてはギャグ小説として死んだ感がある二人だが、電流対策を完璧に行えたのが嬉しいのか、その表情はドヤ顔であった。

 逆にシコルスキは不本意そうである。ツッコミ役には休んで欲しかったのではないのか。ダブルスタンダードなスタンスが垣間見えている。

 しかし――ギャグ小説として正しいのは間違いなくシコルスキであろう。

「……とはいえ、この状況を予想していなかったわけではありません。お二人はツッコミがメインとはいえ、たまにボケると面白い素養もありますからね。従って、君達二人のドヤ顔を叩き壊すようなファクターを、本日はゲストとしてお招きしました」

「ゲスト!?」

「誰だよ!」

「君達を嫌いになりそうだ……! ではご入室して頂きましょう。どうぞ!」

 パチンとシコルスキが指を鳴らすと、部屋の扉が自動的に開いた。

 そこに居たのは――


「どうも~。小生で~す」


 白衣にキノコヘアーという出で立ちの、いつものアイツ――アーデルモーデルである!

「お待ちしておりましたよ、アーデルモーデルくん。やはり君が居てこそ、本作の空気は完成されると言っても過言ではありませんからね!」

「空気が臭えだけぇええあああああああああ!!!! しまったあぁああああ!!!」

「臭い? チッ、さっきまでシコってたのがバレたであるか……」

「不要な情報を赤裸々に述べなああぁぁぁぁぁ!! もうやだあぁぁああああああ!!!」

「やはり君は最高です……!」

「え? 何やってんのこいつら?」

 いきなり身悶えするサヨナとユージンを、見下すような目でアーデルモーデルが眺めている。

 全身から黒煙と殺意を立ち昇らせつつ、ユージンが凄みながら言った。

「てめえこそ何で生きてんだよ全身ツッコミ感帯野郎……!!」

「そんな全身性感帯みたいな感じで小生のレゾンデートルを問うのか!?」

「普段から別に会いたくないんですけど……わたしの人生で今一番あなたに会いたくないタイミングが今です……。あっちで死んで欲しい……」

「そんな雑な死の指示があるか! おいジーライフ、普段から奇妙なこいつらがより一層奇妙かつ奇特になっているのである。どっか病んだんじゃねえの?」

「もう喋んな存在テレフォンパンチ野郎おぉおぉあおあああああ!!!!!」

「社会の病巣そのものに病んでるとか言われたくなああああああゃぁやあああ!!!!」

 何かやったわけでもないのに、アーデルモーデルの眼前で痺れる二人。

 アーデルモーデルはしばらく考え込み、やがて一つの結論に至った。


「これって小生の力……!?」


「違いますが、その通りです」

 正しく言うのならば、ツッコミどころが白衣を着てKADOKAWAフォルムになっているのがアーデルモーデルである。

 どれだけ上辺だけのツッコミレベルを落としたところで、根っからのツッコミジャンキーなサヨナとユージンは、アーデルモーデルにツッコミを入れざるを得ないのであった。

「おいおい小生って雷撃系能力者だったのか……。一番美味しいポジションであるな……」

「二つ名はどうします?」

「ねずみポケモンでいく」

「ピカチュアあぁああァアアァア!!!」

「先生もうこの有害物質(キノコのほうし)に喋らせないでください!!!!」

「別にアーデルモーデルくんは普通に喋っているだけではないですか」

「異常者に普通なんて基準値は存在しねえんだよ!! 意思を持ったチンコだろこいつは!!」

「ライエンドはどうにかして小生の心に傷を負わせようとしてない?」

 因みに――ツッコミどころが多い分、いじられキャラでもあるアーデルモーデルはツッコミに回ることもそこそこある。

 なので意外とツッコミの腕があるのだが、原則としてはボケに分類されるので、シコルスキはバッジを与えなかった。

 が、せっかくなので手作りの金メダルをアーデルモーデルへと授与する。

「これは普段から頑張っている君に対する、僕からのお礼です。いつもありがとう、アーデルモーデルくん!」

「帰れ」

「帰って欲しい」

「多数決的に喜んでいいのかこれ? ま、まあ、小生ほどキサマら凡作に多大なる影響を与えている高尚な存在もあるまい。もっと褒め称えるのである!」

「本音は?」

「これまでの人生で表彰されたことなんてないからめっちゃ嬉しい……?」

「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

「なんでええええええええええええええええ!!!」

 まだ何も言っていないにもかかわらず、二人に電流が流れた。

 アーデルモーデルへツッコミを入れたいという欲が相当に溢れ出てしまったのだろう。

「今回は心温まる回なので、皆で互いのことを褒め合いましょうか」

「でも何かこいつらもう物理的に肉体が温まってない? 小生の力やべえわ」

「その通りだよ!!」

「だからもう喋らないでくれませんかね……」

 二人は息も切れ切れである。アーデルモーデルはニチャっと笑った。

「じゃあ今から小生とっておきの漫談をするから、拝聴しろキサマら」

「意味分かんねえよ!!」

「とっておきの漫談!?」

「恐らくその防御法ではもう防ぎ切れないと思いますねえ」

 こうして地獄のような時間が始まったのであった――


     *


「……はっ!」

 自室のベッド上で、サヨナは目を覚ました。窓からは朝陽が差し込んでおり、鳥の鳴き声が聞こえてくる。

「ゆ、夢……!?」

 己の身体を動かしてみると、特に麻痺などは残っていない。電流を散々流されたにも関わらず、外傷のようなものも一切無かった。

 どうやらあまりにもリアリティのある夢を見てしまったようだ。

「冷静に考えてみれば……先生はそんなことをする人じゃないよね」

 シコルスキはふざけることは多いが、他人を傷付けるようなことを積極的には行わない。

 ツッコミをしたら電流を流す――というような非人道的な行為は、まかり間違っても自発的には提案しないだろう。そのことを改めてサヨナは理解した。

 だからこそ、サヨナも自由奔放にツッコミを入れることが出来るのだ。

いかにクソつまんねえツッコミがあろうとも、その時心に思い描いた言葉を相手に投げ付けるというツッコミは、縛られたり憚られたりするものではない。

「……でも、もうちょっとツッコミの出来には気を配ろう……」

 そんな配慮が果たして意味を有するかはともかく、一人サヨナは心に誓った。

 と、その時彼女の部屋の扉がノックされる。返事すると、シコルスキが現れた。

「おはようございます、サヨナくん。少々いいですか?」

「あ、はい。何か?」

「いえ、実はですね。今日は少々君とユージンくんを労おうと、パーティーでも開こうかなと思いまして――」


「ギャグによくある無限ループを匂わせたクソみたいなオチ!!!!」


「朝から随分な大声だ……」


 己の運命を予感したサヨナの絶叫が響き渡る。

 実際に無限ループしてしまったのか、それはもう誰にも分からない――



《おしまい》

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