〜8・悪魔払い〜

「アハッ!!アハハハハハハ!!!」


なぜか高笑いしながら『詞衿』は縁の方へ突っ込んでくる。右腕を横に広げ、右から左へ

振り抜いた。


「なんかやばそうな気がする!!」


何か感じた縁は咄嗟にアサルトライフルを捨

て足のブースターを起動、『詞衿』の頭上を

宙返りしながら飛び越えた。着地を失敗して

よろけたが、能力を使って自分の体を無理矢

理反転させ『詞衿』の方を向き、『インパク

ト・ブラスト』を『詞衿』に放つ。『詞衿』

はすっころんだが、同時に投げ捨てたアサル

トライフルが空中で粉々に分解された。


「ヒェ・・・身の危険も感じるけど、銃壊しちゃった・・・始末書ものかな・・・?」


「そんなことは後からでいいからさっさと抑え込め!!」


「ていうか先輩何やってんですか!!助けてくださいよぉ!!」


「こっちも追加の結界張ったりしてんだよ!『紫電』使え!」


「んな乱暴な・・・わかりましたよ!」


「キシ・・・キシャシャシャシャシャ!!!」


縁が『詞衿』に向き直ると、彼女はもうすで

に立ち上がっていた。目は光を失い、なのに

口角を高く釣り上がらせ笑っている。


「コロス・・・ゼンインコロス!!」


「優子さん・・・今解放します。テミスさん。『紫電』を。」


『了解いたしました。』


と呟くと、縁は右手を背中の方へ伸ばす。そ

れに呼応して背中に取り付けられた『紫電』

が傾き、引き抜きやすくなる。縁は柄を掴

み、引き抜いた。『紫電』の美しい銀の刃が

光を反射してほのかに輝いていた。縁はそれ

を両手で持ち、上段の構えのように『紫電』

を構える。

それを見た『詞衿』は倒れ込むように走り出

す。また腕を横に広げ、大振りに振り抜く。


「せぇぇぇぇぇぇあぁぁぁぁ!!!」


気迫を込めた声を叫ぶように発しながら、

『紫電』を振り下ろす。途中で何か透明で弾

力のあるものに当たった感触があった。縁は

そのまま『紫電』を振り抜き、その目に見え

ない何かを斬る。その直後に縁の少し横あた

りで地面にえぐられたような痕ができた。


(よし!能力の効果を斬れるとか言ってたけどこう言うことね!)


「エ・・・アァ!?」


「たぁぁぁぁぁ!!!」


少し驚いたような反応を示した『詞衿』をよ

そに、縁は切っ先をすぐに左後ろに向け、ブ

ースターを利用しながら『詞衿』の目前へ詰

め寄る。そのまま体の軸を回転させ、『紫

電』を左上から右下へいわゆる袈裟斬りをす

る。しかし『詞衿』も黙ってはいない。バッ

クステップで刃を避けると、反撃のためすぐ

に前へ駆け出して左手を突き出す。縁は体を

よじって避けようとしたが間に合わず、手が

かすった肩のアーマーが分解された。


「よっとっと・・・危ない危ない・・・肩が無くなっちゃうところだった・・・能力はクリーンヒットしない限り完全には分解されないのかな?よく考えたら最初からすれば良かったけど動きを止めたら楽だったね!難しいけど!」


と、反転して飛びかかってくる『詞衿』を前

に、縁は右手を地面に叩きつける。空中にい

た『詞衿』はいきなり直角に真下の地面へ叩

きつけられ、さらに『詞衿』の周りの地面が

円状に凹む。


「グゥゥ・・・ウゴケ・・・」


「そりゃそうでしょう。重力を大体10倍にしたんですから。というわけで優子さんを操る悪魔め!出てけ!」


と、縁は『紫電』を突き刺そうとした。後も

う少しで切っ先が『詞衿』に刺さるというと

ころで唸っていた『詞衿』の口から粘度のあ

る黒い何かが、ズルリと飛び出した。


「うえ!?うわぁぁぁ気持ち悪い!!」


それを見て慌てて飛び退いた縁をよそに、黒

い何かはものすごいスピードで地面を転がり

逃げようとする。が、ある程度行ったところ

で透明な壁にゴウン!と大きな音を立てて当

たって止まった。


「・・・結界が通り抜けられない?」


「そうだな。あれは悪魔だからな。」


「先輩!?今どこにいるんです?それにあのブヨブヨが悪魔?」


「結界張りが終わった。優子さんを避難させる。少し引きつけろ。」


「チキショウ!ヨクモヤッテクレタナ!ニンゲンドモ!!」


黒い何かが体を震わせてさけんでいる。と同

時に姿が変わり始めた。丸まった物体から異

様に長い腕と脚が生え、物体が胴体に造形を

変え、最後に胴体から角の生えた頭が伸びて

きた。


「アァァァァァウゼェ!モウスコシデケイヤクガカンリョウシタノニ!!マァイイ、テメェラコノ『ディアム』サマヲジャマシテイキテイラレルトオモウナヨ!」


「うっさい気持ち悪い奴!」


「テメェ!!」


と、ディアムと名乗った悪魔が激昂して突撃

したが、ある程度のところで思い出したかの

ように急ブレーキをかける。


「オット、オマエノノウリョクノハンイハココヨリチカクカ?サイショカラツカワナカッタコトヲカンガミルニ、イマダセイギョデキテナインジャナイカ?ソレトハツドウマデノタイムラグガアル。」


(こいつ・・・案外頭いいみたいだね。)


そう。縁の能力には制限がある。縁を中

心に直径3メートルの円内、上は重力がある

程度働くところまで、下は地中50メートルま

での円柱の中の範囲なら自由に重力の方向、

大きさを変えられ、細かな範囲指定も可能だ。逆にいうなら対象がその範囲の外にある

ならどれほど重力の大きさを大きくしたとこ

ろで押しつぶされることはない。また、能力

の使用から能力の発動まで数秒のタイムラグ

がある。それは戦闘において痛いタイムラグ

だ。


「だからって・・・負けるわけには・・・!」


「グダグダウルセェ。」


縁が『紫電』を構え直したディアムはもう横

にいた。その異様に長く伸びた腕を鞭のよう

にしならせ、振り放った。


「ぐぇぇぇえぇ!!」


手刀が縁の背中にクリーンヒットし、大きく

吹っ飛ばされる。それでも反撃の機会を窺お

うと、体を反転させディアムがいた方へ目線

を向ける。ディアムはもう目前まで迫り、腕

を高く振り上げていた。咄嗟に『紫電』を捨

て、腕をクロスさせ頭を防御すると、鞭のよ

うな手刀が飛んできた。その手刀『THEMIS』

の縁の能力用に素材が変更された硬い腕アー

マーで覆っている縁の腕を圧迫する。


「ぎぃぃぃ!!」


「サッサトツブレロ!!」


と、ディアムは上をガードしたせいでガラ空

きとなった縁の腹を思いっきり蹴り飛ばし 

た。『THEMIS』を着ている上から蹴ったの

だが、それでも体が宙に浮き上がった。


「ぐぅ!」


「オワリダニンゲン!!」


浮き上がった縁の体に渾身の手刀を叩き込も

うとした。


(まずいまずい!このままじゃ死ぬ!!体が浮いて打撃も出せない!ブースターも間に合わない!え?詰んだ?)


縁の思考ははっきりしているが、打開する手

立ては見つからなかった。

だが、その手刀が縁に叩きつけられることは

なかった。ディアムが突然左から衝撃を加え

られて、右へ転がったのだ。


「よくやった後輩。合格点をやろう。」


零次が横からヤクザキックを食らわせたの

だ。


「せ・・・先輩・・・遅いですよ!」


「お前が全部1人でやれたら初陣としては万々歳だったんだが、案外こいつやるじゃねぇか。悪かった。だがお前がやってくれたおかげで優子さんは無事だ。お前ば十分仕事した。あとは任せろ。」


と言い、零次は腰につけたホルダーから一枚

の紙札を出す。白い紙に赤色の文字のようなも

のが描かれている。


「その称号は王なり。66の軍を率いる大悪魔なり。」


と、零次が唱えると、いきなり彼の周りを円

を描くように炎が吹き出した。轟々と燃える

その炎は蒼黒く、まるで地獄の業火が噴き出

したようだった。


「ウソダロ・・・ソンナハズハナイ!!」


「我が右腕に宿しはバエル!今こそその力を示し、我が敵を打ち払え!」


と、零次は紙札を投げた。紙札は空中で壁に

張り付くように静止し、蒼黒く燃え盛る炎を

吸い込み、炎の五芒星を零次の目の前に形作

った。五芒星の中心に零次が右腕を突っ込ん

だ。その腕を引くと肘から指先までが変化し

ていた。闇のような黒色をした指先の尖った

西洋甲冑の手甲に紙札と同じ紋様が彫られた

ような姿であった。


「本当は全身分あるが・・・お前程度ならこれで十分だろう。かかってきな。」


と、ディアムを挑発する零次。


「チクショウ!タトエオマエノウデガホントウニ『バエル』ダトシテモ!ソノナメタツラ!クダイテヤル!!」


ディアムはやすやすと挑発に乗り、零次に襲

い掛かる。必殺の鞭のような手刀を繰り出す

が、零次は右腕で掴んで止めた。


「ナニ!?」


「そらよっ!」


掴んだ腕を振り回し、ディアムを地面に叩き

つけた。ディアムが起き上がる前に零次は違

う紙札を取り出した。その紙札には火のよう

なオレンジで紋様と五芒星が描かれていた。

それをディアムに向かって投げ、印を結ん

で、


「朱雀爆炎!」


と、叫んだ。すると、紙札がオレンジに光

り、突如としてディアムの体は炎に包まれ

た。


「ガァァァァ!!?」


「死にやがれ!」


と、苦しむディアムを見ながら零次は右手の

指を一本一本曲げていき、拳となったところ

で一気に踏み込んだ。右腕の紋様から蒼黒い

炎が噴き出し纏わる。尚も立ち上がるディア

ムに気迫と共に繰り出された黒炎の拳が突き

刺さった。黒炎が爆発的に広がり、ディアム

を焼き焦がす。


「クソガァァァァ!!!」


ディアムは絶叫しながら蒼黒い炎に焼き尽く

され、灰となって消えた。


「ふぅ・・・まー、悪魔系統の悪者は地獄に送ってしまえば拘束可能らしいし気絶させてもいいから超やりやすいんだけどな。さて後輩。帰ろう。」


「待ってくださいよ!助けに来るのが遅いですよ!!」


と、仕事が終わったのでさっさと帰ろうとす

る零次に座ったまま呆然と見ていた縁は抗議

する。


「あん?これからもっと怪我するし痛い思い

もするんだから慣れとけよ。」


「むー!いいですけど!!先輩とうとう私を見捨てたかと思いましたよ。ところでバイクにくくりつけた長いやつなんですか?」


「なんかどさくさでひどいこと言われたような気がするが、まぁいい。使うかと思ったらそうでもなかったやつだ。気にすんな。さて、帰るぞ。一件落着。この事件は終わりだ。早く立て。」


と、零次は縁に手を差し伸べた。


「あ、ありがとうございます。それと、これからよろしくお願いします。先輩!次はもう少し早く助けてくださいね?」


縁はその手を取り、立ち上がった。


「あー、善処する。」


「真面目に対応してくださいよ!!」


そうして縁の初めての事件は幕を閉じた。

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