〜4・バラバラ報復〜

「これはすぐに改造するから縁ちゃんは待ってて!これは私のアドレスだから終わったらこれに送るね!」


と瞳のラボから追い出された縁は零次の元へ戻ることにした。

オフィスに入り、自分の席(零次の真横である。)に向かうと、零次が熊と話していた。

熊は比喩だが、筋骨隆々の大男がいた。背丈は2メートルはあろうかという巨体。顔には一条の傷がある。着ているスーツは筋肉のせいか短いわけではないが余裕がない感じに見える。そんなヤクザにいそうな怖い大男が零次と談笑している。縁にとって恐怖でしかない。


「お?そこの女性は誰かな?零次の彼女って言うには若すぎるかい?」


大男が縁に気づいた。物腰は柔らかかった。


「アホ言うな。こいつは課長に任された後輩だよ。萱町縁って名前だそうだ。」


「縁さんね。俺は捜査一課の鬼川鉄彦おにがわかねひこって言うんだ。よろしく。」


「よ・・・よろしくお願いします。」


「そんな固くならなくてもいいよ。あとね、零次は態度こそいい加減だけど根は真面目だから安心して。そして信じてあげてよ。」


「いらんこと言ってんじゃねぇ。」


と、鉄彦の腹にパンチを入れる零次。


「んで?なんもないならここには来ねぇだろ?鬼川。」


「君が嫌がるから言えなかったんだよ。ほらこれ。藪内さんには話してあるから。」


と、鬼川がファイルを渡す。


「お前なぁ、メールで送った方が早いだろ?」


「この方が確実に渡せるしね。よっぽどのことがない限り電子データのように消えないから。」


「そうかい。」


と、ファイルを開く。

縁が横から覗くと、千切れた腕と足の写真が目に入った。


「うぇ!?」


「ははは、新人の縁さんには厳しいかな?」


「い・・・いえ・・・」


「引いてんじゃねぇ、後輩。バラバラ死体くらいでよ。」


「そんなこと言ってやるなよ。零次。」


「これくらい慣れろ。」


つっけんどんに言う零次。


「全く冷たいなぁ。モテないよ。それはそうとそれの説明をするよ。」


と、鬼川が言う。


「さて、その死体はそこに書いてある通り新宿の路地の隅で見つかった。幸い指紋にDNAも残ってだからね。身元はすぐにわかったよ。矢口慎やぐちまこと。前科もない普通のサラリーマンだよ。部位は違えど同じような死体が3つ見つかった。名前はバーのバーテンダーの森辰吉もりたつよし、飛行船クルーの天童光里てんどうひかり、料理人の井上孝雄いのうえたかお。いずれも刀とかそういうレベルじゃないほどすっぱり切られてる。」


「ただの通り魔じゃないのか?」


「いいや、繋がりはあった。同じ高校だそうだ。しかも矢口は中心にいるようなタイプだったらしい。良くも悪くもね。あとは取り巻きだね。」


「・・・怨恨の線か?」


「そうだね。」


「ならいじめの対象となっていた奴が犯人だと見ていると。で?結果は?」


「これで捕まえられたらここには来ないよ。みーんなアリバイがある。今の時代アリバイなんて1ミリも意味はないけどね。だけどそれにしても無能力者か、あんな切り口をつけられるような能力じゃない。ビームソードでもあんな傷にはならない。」


「ほぉほぉ・・・」


縁は横から聞いているだけしかできない。


「まぁいい。連れてけ。鬼川。ほら後輩。行くぞ。」


「ふぇ?はい!」


と、縁は急に出て行く零次を追った。



鬼川の車で現場に行くことになった。

運転席に持ち主の鬼川、助手席に零次、後部座席に縁が座った。


「あのー、鬼川さん。」


「なんだい?」


「先輩とはどういうご関係で?」


「ははは。零次が『先輩』って呼ばれる日が来ようとはね。」


「うっせぇ。」


「零次とは同期だよ。そんで中学の同級生。ただ、俺は零次みたいにドンパチする勇気がないからね。零課には入らなかった。」


「・・・」


「そういえば縁さんはどうして零課に?」


「私は五年前に零課の人に助けてもらったんです。それからここは憧れで。」


「ふぅん?そりゃ夢が叶ってよかったね。」


と、微笑む鬼川。

しばらくして縁が思い出したかのように言った。


「ところで先輩?」


「ん?」


「瞳さんのラボ?で壱概っていう人に会ったんですけど、何者なんです?」


「あいつは・・・俺の後輩でお前の先輩だが少々特殊でな。まぁ気にしなくていい。」


「・・・?はい・・・」


はぐらかされたのはわかっているが、どう聞いても答えてくれなさそうなので縁は黙ることにした。


「さて、ついたよ零次。ここが矢口の死体があった所だ。」


「そうか。」


とだけ言って零次は外へ出た。

縁が出るべきが少し逡巡して出た。少し先に血溜まりの跡がある。それをもう少し見ようと近づこうとした時、零次はあたりを少し見てすぐに戻ってきた。


「もういいのですか?」


「あぁ。もう片付けられてる。鑑識の方が証拠を集めているだろ。それに俺は名探偵でも名刑事でもない。推理したけりゃ勝手にやれ。俺はここを見にきただけだ。」


彼は他の三件の事件現場でも血溜まりの跡があり、そして彼はすぐに戻ってきてしまった。


「全く、君はやる気がないね。」


「やる気がないんじゃねぇ。無駄なことをしたくないだけだ。一旦戻る。頼む、鬼川。」


「はいはい。」


「それと後輩、戻ったらなんか食っとけ。午後から少し聞き込みに行くぞ。」


「聞き込みはやるんですね?」


「寄るところがある。そのついでだ。」


と、すごく嫌そうな顔をした。

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