〜3・青き技術屋と死んだ目〜

縁は戦闘演習場の部屋の中にいた

というのも零次に


「どうせならパワードスーツの試運転してこいよ。まだ何にもねぇからな。」


と、この場所に連れてこられ、当の本人は一通りの操作を教えたあと


「じゃ、頑張れよ」


と、さっさと帰ってしまったのだ。

戦闘演習場はこれまた広い白一色のドーム状の部屋だった。真ん中に大きなタッチパネルがあり、それで色々やるようだ。


「・・・やってみようかな・・・」


と、気を取り直してパネルに向かい合う。縁はまずカードを押し当て、自分のパワードスーツを呼び出す。すぐに下から運び出されたパワードスーツを装着する。


「・・・意外に軽いね。動きやすい!」


縁は少しシャドーイングをする。彼女は一つの武術を極めたわけではないが、ボクシング、テコンドーなどを少しかじっている。

それをすませたあと、またパネルに向かい合う。


「むむむ?レベルがある・・・。まぁ真ん中でいいや。」


と12段階あるうちの6を選ぶ。

そして10秒のカウントダウンを精神を集中させながら待つ。

白い部屋がパタパタと変わっていく。正方形の板が次々と回るように縁の後ろから奥へ景色が変わる。そして下からビルの実寸大模型

が伸びる。たちまち無機質なドームが広い市街地へと様変わりした。


「おぉ・・・すごい!」


と、驚いているのも束の間、彼女の目の前で轟音が響き、土煙が立つ。

見ると、人・・・いや、人型の何かがあった。パワードスーツのような見た目だが、ヘルメットはのっぺりとして、その表面にデフォルメされた顔のように並んだ光があった。そして、そいつの手にはショットガン。背中にはスペアらしきアサルトライフルを背負っている。


ダン!!ダン!!


撃ってきた。


「ポポポポポポ!?」


思わず奇声をあげながら生成された車は隠れる縁。

(落ち着け、落ち着け!私ならやれるよ!)

と、心の中で落ち着かせていると上から何かを感じた。見上げるとあの人形が車を飛び越えてこちらに銃口を向けていた。


「うわぁ!」


思いっきりスラスターを全開にして真横に飛び、若干不恰好に転がりながらもかろうじて散弾を避ける。

なおも向かってくる機械人形に対し、このパワードスーツに唯一内蔵されている掌の兵装、『インパクト・ブラスト』で衝撃波を当て、ショットガンを取り落とさせる。

そのままアサルトライフルを掴んだ機械人形

に右の拳でアッパーを決める。

人形は後ろに倒れた。が、相手にもスラスター的なものがあったらしく足からジェット噴射をして体制を立て直す。人間の顎に当たる部分は少しヒビが入った程度だ。


「硬ぁ・・・なにありぇ!?」


人形が前に出ながらアサルトライフルを撃ってきた。

縁は体制を低くしながら立ち向かい、足払いをかけるも避けられ、アサルトライフルの弾がパワードスーツの装甲で甲高い音を立てる。また距離を取る縁に人形は黒いものを投げつけた。


「・・・っ!手榴弾!?」


縁がビル内に飛び込むと同時に爆発した。


「あっぶな・・・そっちがやる気なら!」


と、右の拳に力を込める。


(近づいてきた・・・ここ!)


期を見計らって飛び出す。そして機械人形の胸の真ん中に正拳突きを放つ!

拳が当たった瞬間能力を発動させ、20倍の重力をベクトルを相手に合わせて一点に放出。人形は胸の一点に集約されるように折れ曲りながらビルを二、三棟貫通しながら飛んで行った。

縁がそれを見送っていると、不意に何かが砕ける音がした。


「・・・まさか・・・」


と、右手を見た。

右手の装甲がバキバキに砕けていた。さっきの正拳突きで能力を使った時、手甲にもかなりの負担がかかって、割れてしまったのだ。


「やっちゃったぁぁぁ!!!」


縁の叫びが虚構の街に虚しく響いた。



「ねぇ?大丈夫?」


後ろからそう聞かれた。


「ふぇ?」

声をかけられたことに驚いて、慌てて振り向くと、腕に何かが当たった。


「みぎゃん!」


と悲鳴を上げて誰かが転がった。

10代くらい少女だった。その長い髪は海のように青かった。だぼだぼな白衣を着ている少女の頭の上にはピヨピヨとひよこが回っていた。


「大丈夫ですか!?」


と縁が駆け寄るとすぐに目を覚ました。眼はキラキラとした美しい青だった。


「うん!大丈夫!!」


と、ぴょこんと飛び起きた。


「それよりもそのパワードスーツ見せてよ!」


「は・・・はい。」


と、右腕を見せる。


「ありゃまー、バッキャバキャだねぇ・・・能力一回使っただけでこの有様って・・・レムナントは何やってんの?」


ブツブツ呟きながらリモコンを操作してホログラフィックの街を消す。ビルは引っ込み、残ったのはボロボロの機械人形だけだった。


「あーあーあーあー・・・確か縁ちゃんは重力を操る能力だっけ?凄まじいねぇ・・・傍から見てたけど綺麗な正拳突きだったね!なんかやってたの?」


「え・・・えぇ・・・色々と・・・」


「へぇー?あ、私玖恋瞳くれんひとみだよん!よろしく〜!」


「は・・・はい!私は萱町縁です!よろしくお願いします!」


何が何だか分からず縁は混乱する。


「ちなみに一応先輩だけど普通に喋ってくれていいよ!」


「は・・・はぁ・・・」


「さて、とりあえずパワードスーツ脱いで。修理するからね!」


「もしかして・・・貴女技術屋さんですか?」


「そう!ここの機械や銃その他諸々を直したり、ガジェットを作ったりしてるよー!」


と、手を回しながらくるくる回る瞳。


(瞳さん何歳だろ・・・)


「ちなみに22歳!」


「え!?年上?」


ちなみに縁は19だ。


「だから大丈夫だって!ほら行くよ!」


と、縁をグイグイ引っ張る瞳は自分のカードを壁に押し付けた。すると壁が開いて通路が現れた。

通路の果ては隣の研究室だった。よくわからない機械の残骸が散らばり、配線がいろんなところに伸びている。


「ほら脱いで!」


「あ・・・はい」


縁はパワードスーツを外す。


「とりあえずこいつは改修するからちょっとだけ待っててね!」


「あ・・・はい。」


瞳がパワードスーツを手術台のような場所に小さい体でなんとか乗せる。

ドアが開いた。その奥からゴロゴロ台車を押しながら誰か入ってきた。

黒パーカーとジーンズを着た二十代の男。茶色がかった黒の短髪。どこでもいそうな人だが、その光を反射しない死んだ魚のような目だけが異質だった。


「・・・?」


「あ!りゅーくぅぅぅぅん!!」


とその男に瞳が抱きついた。


「へ?」


「おい・・・苦しい。」


と、男はさして興味がなさそうに瞳を引き剥がす。


「うーみゃん・・・」


「すみません。騒がしくして・・・」


「はい・・・」


縁は何も言えなかった。


「この人はりゅーくん!壱概竜二いちがいりゅうじ君!こっちは萱町縁ちゃん!」


「・・・」


「どうも・・・竜二さん。」


竜二は何も言わない。


「ほら、持ってきたぞ。」


「わーい!」


瞳は子供のように喜んだ。


「ありがとう!次はこれ持ってきてよ!りゅーくん!」


と代わりにお金と白い紙を渡す。


「全く・・・まあいい。わかった。」


と、さっさと出て行ってしまった。


「もう!りゅーくんはつれないなぁー・・・」


「あの人は何者ですか・・・?」


「私の恋人!」


と、瞳は言い切った。

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