〜2・冷徹な眼差し〜

ビルの中は外から見るより何倍も広かった。

トレーニングルーム、射撃訓練施設、研究室等々多数の施設が入っていた。

縁はキョロキョロしながら藪内についていくと、彼はある扉の前で止まった。


「あぁ、忘れていました。これを。」


と藪内はカードを縁に手渡した。プラスチックのような手触りの縁の顔写真と名前が書かれていた。


「ここは武器庫です。ここや後いくつかの場所はそのカードがなければ入れません。万が一盗まれても生体認証がありますので大丈夫ですが、無くさないように。」


「は、はい!」


「では、武器庫の中を見せましょう。」


そう言って彼は自分のカードを押し当て、開ける。

中は広い空間があった。そこに拳銃、ショットガン、ライフル、RPG、レールガンなどの銃器、爆発物、近接武器などが大量に棚に置かれていた。しかしそれよりも縁が目を引かれるものがあった。奥に置いてあった『それ』に近づく。

『それ』は黒く、人型であった。金属でできており胸には青く光る円形のものがあった。ちょうど縁の体格とぴったり合うくらいの大きさ。その腕のあたりには小さく『TSー3000』と書かれていた。


「・・・これ、パワードスーツですか?」


「ええ、貴女専用ですよ。」


パワードスーツ。映画のアイアンマンのスーツなどを思い起こしてくれればいい。胸のコアにある半永久的に発電し続けるプランクニウムリアクターが動力源である。とはいえスーツ自体に兵装を内蔵するのは難しいため、他で補う必要があるのだが、その装甲の硬さと機動力には目を見張るものがある。


「すっごい・・・これが・・・はっ!すみません!つい・・・」


少し見入っていた縁が我に返って、猛然と頭を下げて謝る。


「いえいえ、大丈夫ですよ。では行きましょうか。」


「はい!」


縁がまた親鳥についていくヒヨコのように藪内の後ろをついていくと、どうやら普段現場とかに出ない時に作業する場所らしい。かなり広く、そこらで忙しそうに何かを書いたり、電話をかけたりしている。


「ここが大体書類の作成だのなんだのをするところです。あなたの席もありますから後で教えましょう。さて、付いてきてください。」


と、藪内は奥の方へ歩いていく。しばらく行ったところのデスクに男が寝ていた。藪内が近づいてゆするまで全く起きないほどの熟睡だった。


「ほら君。起きてください。」


「んぁあ?・・・あぁ・・・課長さんか・・・おはようございます。」


「寝不足なのはわかりますがそんな堂々と寝ないでください。」


「あぁ・・・すんません。」


と、彼は不機嫌そうに言う。少し長めのダークグレーの髪が方々にはねていた。ブラックのスーツは少し着崩れ、彼のデスクの上は物が乱雑に置かれていた。二十代くらいの男の顔はいわゆる「イケメン」という部類に入りそうだが、縁はその目が少し怖かった。何が冷たく突き刺さるような目。それが藪内の後ろの縁に向けられていた。


「誰だ?そいつ?」


「この人はこの度加入した萱町縁さんです。縁さん。この人は神薙零次かんなぎれいじ君です。これからこの人の部下として活動してください。」


「へ?あ、はい!」


「は?」


零次は素っ頓狂な声を上げる。


「おい聞いていないぞ!」


「言いませんでしたっけ?まぁそれはそうと零次君も部下を持ってもいい頃では?」


「・・・チッ・・・わぁったよ。どうせ拒否しても押し通すだろ?」


と、苦虫を噛み潰したような表情をする零次。こうなると零次は結局丸め込まれてしまう。


「そうですね。よくわかってるじゃないですか。縁さん、零次君は見た目こんな人間ですが優秀かつ優しい方なので安心してください。」


「はい!」


「・・・」


なおも不機嫌そうに黙る零次。


「先輩!よろしくお願いします!」


と、縁がペコリと頭を下げても彼は何も言わなかった。

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