〜6・闇に蠢くもの〜

『ソレ』は闇の中を蠢いた。

真っ黒のフードを深く被り、高層ビルの屋上から下界を覗く。

やがて暗い路地裏に入る目標を見つけた。


(アイツハナゼノウノウトイキラレル?ヒトヲフカクキズツケテオイテ・・・)


『ソレ』は怒りを露わにするかのように手を強張らせる。


(マァイイ。ココデムクイヲウケテモラウ。ノコスノハドコガイイダロウカ?ウデ?アシ?ドウ?アトデカンガエルカ。)


しかしその口元は醜く釣り上がる。


「ギャハハハハハハァ!」


と、高笑いし、屋上から飛び降りた。



翌日、縁が出勤の為混雑したアスファルトの上を歩いていると、メールが入った。瞳からだった。


『カスタム完了だよ!!取りに来てね!!』


ということだった。

そんなわけで縁は建物に入ってすぐにラボに向かった。


「あ!縁ちゃんだ!おっはよー!」


瞳は昨日と同じようにキラキラした目で手をブンブン振る。


「おはようございます。瞳さん。」


「それはともかくできたよ!縁ちゃん専用パワードスーツ!」


と言ってポケットからリモコンを取り出し、操作する。すると天井から箱状の何かが降りてきた。中には待機状態のパワードスーツがあった。

黒いボディにはいくつか黄色い機械的な線が引かれていた。手足の部分は上から鎧を嵌めたようにゴツくなっていて、頑丈そうである。元々小さく『TS-3000』と書かれていた腕には大きめの文字で二行『TS-3000-C-5』『THEMIS』と印字されていた。手甲には剣と天秤が組み合わさったシンボルが描かれていた。


「・・・テミス・・・?」


「そうだよ!ギリシャ神話の法と掟の神!いい感じじゃない?気に入らないなら剥がすけど・・・」


「いえ、かっこいいです!」


「そうか!よかった!」


「それで・・・これはどこがどう変わったのですか?」


「よくぞ聞いてくれた!腕部脚部をレムナントのポンコツが作ったちゃちいタングステンとアルミニウムの合金じゃなくてりゅーくんが持ってきてくれたヴァリスメタルとその他諸々を混ぜて鋳造した素晴らしい硬さと粘りのある合金を使ってるよ!よっぽどのことがない限り二千万倍以上の重力かけても割れるどころか曲がりすらしない筈だよ!」


「ほ・・・ほぉ・・・」


縁はペラペラと喋り続ける瞳に少し引いた。


「まぁ説明はここまでにして試してもらおうか!」


「ふぇ!?はい!」


縁はヘルメットを取り、操作すると頭が入りやすいように展開される。そして箱の中の『THEMIS』の残った胴体部に触れると背面装甲が開いた。後ろから縁が嵌るように着て、展開させたヘルメットを被ると頭にフィットするように縮まる。目の前に手甲と同じシンボルと共にディスプレイが起動する。縁は手足を動かして感触を確かめる。


「いい感じですね・・・でも銃の引き金引けなくないですか?」


「大丈夫!変形するから!さ、早く試そうよ!」


「わ、わかりました!」


と、急き立てられるように隣のトレーニングルームへ向かう縁であった。



「あ・・・あぁあ・・・」


「出勤してまだ数時間も経ってないのにもう怠そうだね。零次。」


大欠伸をしている零次をみて呆れたように言う鉄彦。


「あぁ、鬼川。もう来てたのか。相変わらず真面目なことだ。」


「君はもうちょっと真面目にやるフリでもする努力が必要だと思うよ。それよりも、また被害者だ。馬刈螺夢まかりらむ。無職。左足と左腕が残ったよ。」


「・・・そうか。」


「で?どうなんだ?進捗は?」


「今は待ちだ。潤の情報が要る。」


「潤さんね・・・俺苦手なんだよ。いくら鬼でも俺みたいな下っ端鬼じゃ竜巻には勝てないよ。」


「・・・。」


そこに少し息の上がった縁が到着した。


「すみません!ちょっとパワードスーツの調整をしてまして・・・」


「そんなことはいい。ちょうどいい。もうそろそろだ。」


と、零次が呟くとオフィスのドアが激しく開いた。


「よーっす。零次どこだ?」


潤だった。


「夏・・・いえ、潤さん!こっちです!」


「お、そっちか。全く、辞めた時と配置が変わっててわかりにくいぜ。」


と言いながら潤は歩いてくる。


「よう零次。奥まったところに追いやられてんな!」


「場所はどうでもいいだろ。情報は?」


「そう急かすなよ。ほらよ。」


と、背負ったリュックから赤い封筒を零次の机の上に投げる。


「あんがと。ほら、金だ。」


「私は金の亡者じゃねぇよ。どちらかというと仕事の亡者さ。ま、貰えるもんは貰っとこう。」


と、零次が机の棚から出した分厚い封筒を潤が受け取る。中身も見ずにリュックに放り込むと、


「じゃあな。これからもご贔屓にな。なんつってな!」


と、颯爽と去っていった。


「・・・全く・・・嵐だね。潤さんは。」


「そうですね・・・鬼川さん。」


「君もそう思うかい?」


と、鉄彦と縁がひそひそ言っている間にも零次は封筒を開け、何枚もの紙を次々見ていく。

しばらく読み進め、最後まで読み切った時、


「ふぅ・・・全くあいつは完璧な仕事をする。いや、完璧以上。よくやるよ。」


「何か分かったのかい?零次?」


「犯人が分かったのですか?」


「仮説はたった。ただ証拠が少ない。だがな後輩、俺たちはゼロ課戦闘系職員だ。鬼川、本来俺たちは推理なんてしねぇ。ただ出てきた悪人をぶん殴って捕まえりゃいい。間違えないために推理の真似事なんざしなきゃならんのだよ。まぁ御託はいい。鬼川、仕事を頼む。」


「おいおい、藪内さんに言わなくていいのかい?まぁいいよ。君は優秀だ。君の仮説は大体当たる。」


「うるさい。俺の推理は重要な時に外れるんだよ。」


彼は苛ついたように吐き捨てた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る