〜7・仮設の仮説〜
零次の『推理』に基づき、『犯人』と思われる奴の張り込みを一課の職員とと零課の非戦闘系職員が共同で始めてから3日後、動いたという情報が入った。
「さぁて・・・仕事だ。やるぞ。」
「なんかやる気がありますね。」
「そうか?まぁいい。後輩。さっさとパワードスーツ用意しろ。」
「『THEMIS』です!」
「なんでもいい。さっさとパワードスーツと載せる武器を用意しろ。とりあえず弾は非殺傷のゴム弾。『紫電』も持っていけ。用意したら情報を頼りに先に追え。俺は後で行く。」
「了解です!!」
縁はビシリと敬礼し、武器庫に走る。
『THEMIS』に銃器と弾、各種ガジェット、最後に一本の刀を取り付け、装着する。
武器庫から直接上に行くエレベータに乗って、空軍の戦闘機の格納庫のような出撃レーンに向かう。
「うわ・・・秘密基地みたい・・・」
『そりゃそうだよ。元は秘密の部署だからねー!』
と、無線から瞳の声が響く。
「あ、瞳さん。」
『やっほー縁ちゃん!とりあえず飛び方はちゃんと習ってるはずだから機能チェックするよ!』
「了解です!」
すると、『THEMIS』のフラップがパタパタと動いた。そのあとに縁が手や足を動かし、稼働を確かめる。
「ふむ、一応チェック完了!あとはAIに従ってねー」
「AI?」
『私でございます』
「おぉ!!」
突然耳元で女性的な機械音声が響き驚く縁。
『私はこのパワードスーツに搭載されているAIでございます。お見知り置きを』
「よっ、よろしくお願いします!テミスさん」
『私はKLA-3000-5という型番ですが・・・』
「長ったらしいよ。テミスさんでいいじゃん」
『では今後はテミスとお呼びください』
「わかった!んじゃ行くよ!」
『標的は6キロほど南西を北方向へ進行中の模様です』
「了解!!」
と、躊躇なく高層ビルの屋上近い階から飛び降りる。すぐに手足の『インパクト・ブラスト』を応用したブースターを起動し、飛行する。
パワードスーツ、特にSソルジャータイプの飛行速度はかなり速い。その気になれば戦闘機クラスの速度を出すことだって可能だ。今回はそれだけの速度を出す必要もないので少し速い車並みの速度を出した。
『観測からの情報によるとあと600メートルほどです』
「速いね!瞳さんのチューンは凄まじいよ・・・あ、あれかな?」
すぐに標的に追いついたことに驚きつつ、標的を視認する。
人間のような姿をしているが、壁に張り付いて移動する様はトカゲのようだ。もはや普通の人間や多手程度の亜人には到底不可能な動きだ。『能力』がなければの話だが。
「どうしよう・・・あれ・・・」
『相手の怪我は後でどうにでもなる!叩き落として動きを止めろ!その付近の道路は封鎖してある!』
ヘルメットに零次の声が響く。
「り・・・了解!撃ち落とします!」
と宣言して、縁は『THEMIS』の機動力を生かし進む標的名前に回り込み、『インパクト・ブラスト』をその頭部に打ち込む。
『インパクト・ブラスト』は殺傷能力は低いが、強い衝撃波によって相手を吹き飛ばす武器だ。その衝撃波によって標的は頭をのけぞらせた。がら空きの体に『インパクト・ブラスト』を発射し、ついに壁から引き剥がすことに成功した。尚も進もうとする標的にアサルトライフルのゴム弾を目の前に撃って牽制する。
「やるじゃねぇか。とりあえず合格だ」
そんな時、やっとこさ零次がバイクを走らせて現れた。バイクには零次の背丈ほどもある布で巻かれた何かが邪魔にならないようにくくりつけられていた。
「合格だ、じゃありませんよ!遅いですよ!!」
「うっせぇ。こちとら用意があったんだよ!・・・さて・・・4日ぶりですかね?黒部優子さん。いや、この時『
と、零次はニヤリと笑った。それをみながら縁は3日前に聞いた『仮説』を思い出す。
*
「俺の予想は黒部が犯人だと思っている」
と、零次は言った。
「ほう?何故だい?零次?」
「まず犯人は消滅の能力者じゃない。鬼川、遺留物の中に変に削れたものとかあったか?」
「まぁそうだな。半分だけのバッグとか色々とね」
「それに残っていた血痕が広がりすぎている。残った腕や足からの血だけだと足りない。そういや血溜まりから肉のかけらが見つかったって?」
「耳が早いね。そうだよ。馬刈の事件現場に乾いてない血溜まりがあったんだ。分析してみたら馬刈自身の肉片がたくさん・・・」
「うえぇ・・・でもなんででしょう?能力が消滅なら肉片もきれいさっぱり消えちゃうんじゃ・・・」
「そこで俺は考えた。もしかしたら消滅ではなく『分解』なんじゃないかってな」
「分解・・・?」
「肉体の結合を切り、細かく細かくしていって消した『ように見せかける』。腕や足を残したのは見せしめだろうか。断面は削りを揃えればなんとかなるだろうよ」
「確かに黒部さんは『ものを分解する能力』を持ってるね。でもそれほど強くはないはずだよ?」
「いいや、あれは暴走しかかってる。後輩。話聞きに行った時、花瓶の花が減ったよな?」
「え?はい。でもあれは小人のせいじゃ?」
「花が3本丸ごと無くなったんだぞ?花瓶には水も入れてある。お前の身長の何倍もある長さの水の入った筒に入った棒を水を床に垂らさずに持ち帰れるか?」
「あぁ・・・まぁ・・・確かに」
「とりあえず仮説だから他の例外は置いておこう。問題は、悪魔が憑いてる反応があった」
「悪魔!?教えてくれればいいのに・・・」
「解散して一応機材持って近づいただけだ。おそらく暴走の原因はそいつだろ」
「でもちょっと待ってください」
と、縁は疑問を呈する。
「優子さんは車椅子ですよ?そんな優子さんが広い範囲での殺戮はできませんよ?」
「そうだ。『どうやって』だ。だから潤の情報が欲しかった。『歩けない』という身体異常でも原因は色々ある。黒部の場合過去に事故に巻き込まれ、それのストレスによる『心因性』だ。つまりその歩けなくしている『心の楔』さえ取り除けば歩けるというわけだ」
「んな無茶な。カウンセリングでもまだ取り除けないトラウマを簡単に外せるのか?」
「分からん。だが、面白い情報を見つけてな。黒部は元二重人格者だ」
「二重人格・・・?」
「そうだ。高校生時代の話だ。もう一つの方は便宜的に『詞衿』と仮称されたらしいが、これがまた凶暴だったらしい。統合するまで時間がかかったらしい。でも、統合しきれなかったとしたら?『詞衿』が何かを待っていたとしたら?そもそも被害者と黒部の接点は高校のみ。じゃあ予測もたつ」
零次は人差し指をピンっと立てた。
「おそらく『詞衿』は復讐の機会を待っていた。どうにかして自分を痛めつけた奴らに制裁をとな。そこに悪魔が目をつけたってとこだろ。あくまでも予測だし穴だらけだがな」
と、締め括った。
「とりあえずわかったよ。今考えるべきは1つ。どうやって悪魔を優子さんから引き摺り出すか」
「それだが、少し待ってろ」
と、零次は立ち上がり、物置となっている後ろの部屋に入る。
「あークソ!!めちゃくちゃじゃねぇか!」
「あのー・・・手伝いましょうか?先輩?」
と、おずおず縁が言うのを無視して探すこと数分、やっと戻ってきた。
「やっと見つけた・・・これだ」
と、零次が持って来たのは一本の刀。暗緑の鞘に少し錆びた黒の鍔。柄には紫の紐が巻かれている。
「これは?」
「『紫電』。いつだったか忘れたがもらった。こいつはいわゆる妖刀でな。鬼川、動くなよ?」
「ん?あぁわかった」
のほほんとした顔な鬼川に向かって零次は『紫電』を引き抜いて切りつける。
「ええええ!?ちょっと!?」
「よく見ろ。切れてねぇよ」
「ほへ?」
確かに鬼川は変わらずニコニコとしている。
「あれ?どうして?」
「妖刀だって言ってんだろ?こいつは魔物とか化け物とか能力で起こったものとか魔術の魔法陣とかをぶった切れる刀だ。その他はスカスカ通り抜けて斬れやしない。触れたり研いだりくらいならできるがな。・・・説明が難しいな」
「へぇ・・・?いつの間にそんなものを?あぁ、忘れたとか言ってたね」
「確か潤がもらって来て『武器はいらねぇ』とか言って放って行ったやつかなんかだ。そんなことはどうでもいい。肝心なのはこいつが使えるってことだよ。とりあえずお前が持っておけ。後輩」
「は・・・ははー。ありがたき幸せー」
「どういうノリだよそれは。ともかくそいつを使え。お前を主軸に行動を組む」
「え?でも私は新参者・・・」
「わかってる。まぁ初任務だ。せいぜい死なないようにするんだな」
と言って、何処かへ行ってしまった。
「あんな言い方ないのに・・・」
「全くだね。口下手にも程があるよ。ちなみに零次が言いたかったのは『俺の方で色々サポートしてやるから初陣伸び伸びとやれ。頑張れ。』ってとこかな?」
「わかるのですか?」
「長い付き合いだからね。なんとなくは。さぁいってらっしゃい。期待のホープちゃん」
「はい!頑張ります!」
と、縁は元気よく答えた
*
『詞衿』は少し顔を上げた。異常なほど大きく見開かれた目は血走り、妖しい光があった。端正だった顔は醜く歪み、まるで野生生物のよう敵意を剥き出しにしている。
「黒部さん・・・」
「今のそいつは黒部優子じゃねぇ!さっさと中に巣食う悪魔を引き摺り出せ!」
「わかってますよ!」
「・・・ロス」
その時ボソリと『詞衿』が呟く。
「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス!!!!ジャマスルヤツハゼンインブッコロス!!」
その声はだんだん大きくなり、最後には雄叫びのように響いた
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